• 『劇場版 銀河鉄道999』名作を飾るヒロインたちの生き様が呼ぶ感動【日曜アニメ劇場】
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2023.11.10

『劇場版 銀河鉄道999』名作を飾るヒロインたちの生き様が呼ぶ感動【日曜アニメ劇場】

(C)松本零士/零時社・東映アニメーション


●3人の “恋人” たちが魅せるそれぞれの生き様●
『銀河鉄道999』は恋愛ドラマに重きを置いた作品ではないが、人間関係のひとつの形としての “恋” “愛” が重要な要素となっている。

まずは、クイーン・エメラルダスが大山トチローという男を深く愛していたという事実。
人々からは圧倒的な畏怖とともに語られ、凜とした佇まいから時に冷酷さも漂わせる宇宙海賊が、トチローのこととなると動揺を隠さない。そんな様子から、彼女の女性/人間としての存在感に厚みを与えているし、心の奥底に隠す優しさや愛情の深さも感じることができる。それはまた逆に、それほどまでにエメラルダスに愛されるトチローという男のイメージにも繋がっていく。
作中では深く語られることのないエメラルダスとトチローの恋に思いを馳せてみるのも、本作を楽しみのひとつだ。

そして999号の食堂車で働くクリスタルガラスの身体を持つ少女・クレアもまた、印象深い存在だ。
人間の身体を買い戻すために働いている彼女は、クリスタルの身体を「綺麗」と言ってくれた鉄郎を慕うようになり、その想いはやがて鉄郎の危機を救うことになる。
控えめで、健気で、献身的で、純粋。クリスタルのように美しいクレアの想いや、彼女が与えてくれたぬくもりは、鉄郎の心に深く刻まれているはずだ。

鉄郎の仇敵である機械伯爵の愛人・リューズも、本作の中で異質な存在感を放つキャラクターとして強い印象を残すはずだ。
機械伯爵が住む時間城を目指して惑星ヘビーメルダーに着いた鉄郎は、酒場で歌うリューズと出会う。彼女が歌う挿入歌「やさしくしないで」(歌=かおりくみこ/作詞=中原葉子/作曲=中村泰士)は、過ぎ去ってしまった時間に惜別を捧げる哀愁に溢れており、酒場に集っていた老いた人々はみな涙にくれているが、鉄郎にはその涙の意味がわからない……鉄郎の成長を描く“青春ドラマ”としての本作に注がれたほんの一滴の、しかし、確かな味わいを残す “苦み” を感じさせるシーンとなっている。
機械伯爵を倒しに来たという鉄郎に対して、リューズが向ける眼差しや彼女が最後に選ぶ行動を、「やさしくしないで」の歌詞と重ね合わせる時に浮かび上がる感情は、鈍い棘のように観る者の胸に刺さってくる。

●少年の心に永遠に刻まれる「青春の幻影」●
最後に触れたいのは、やはり本作を彩る永遠不滅のヒロイン・メーテルだ。
鉄郎を旅立ちへと誘う謎めいた存在で、時には母のようでもあり、憧れの恋人のようでもあり……そんな彼女の魅力は、これまでも時代を超えて幾度となく語られ続けてきた。

だが、ひとりの女としてメーテルを見ると、また違った印象が生まれてくる。
物語の終盤、鉄郎は神秘的で完璧な存在に見えていたメーテルが、実は複雑な葛藤を抱えながら旅を続けていたことを知る。苦悩するひとりの人間としてのメーテルを知り、鉄郎は本当の意味で「彼女を守りたい」と思う。崩壊する惑星メーテルから二人が脱出するシーンで鉄郎がメーテルの手を握って走る姿は、それまで「導かれる」側だった彼が「導く」側へと立場が変化したことを象徴している。
しかし二人の間に “人と人”としての絆が生まれた瞬間、メーテルは鉄郎の前から姿を消す。「私は、あなたの想い出の中にだけいる女。私は、あなたの少年の日の心の中にいた青春の幻影」という、歴史に残る名セリフを残して――。

鉄郎より少し大人のメーテルは、きっと知っていたのだ。もしもこの先の時間を共有してしまえば、今、彼の目に映っている “メーテルという女性” の存在はむしろ消えてしまうということを。
“青春の幻影” という言葉に込めたメーテルの想い――そこにはきっと、鉄郎が感じていたのとはまた違う痛みがある。

>>>今、万感の思いを込めて汽笛が鳴る……『劇場版 銀河鉄道999』名場面を見る(写真5点)

(C)松本零士/零時社・東映アニメーション

アニメージュプラス編集部

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