• 「松本零士さんお別れの会」ちばてつや、野沢雅子やファンが送る銀河葬
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2023.06.03

「松本零士さんお別れの会」ちばてつや、野沢雅子やファンが送る銀河葬

(C)松本零士/零時社

6月3日(土)、東京国際フォーラム(ホールB7)にて漫画家・松本零士さんの「お別れの会」が開催された。
壮大な松本作品の世界をイメージした “銀河葬” として執り行われ、会場には縁の人々や関係者、そして松本作品を愛する多くのファンが参列し、松本さんを偲んだ。

2023年2月13日に逝去した松本零士は、『銀河鉄道999』『宇宙戦艦ヤマト』『宇宙海賊キャプテン・ハーロック』など、大宇宙を舞台にしたロマンとファンタジーに溢れる物語で多くのファンに愛され、日本の漫画・アニメ・サブカルチャーの歴史に偉大な足跡を残した唯一無二の存在だ。

そんな松本さんの「お別れの会」は〈銀河葬〉と銘打たれ、実行委員長は松本さんの長年の親友だった漫画家・ちばてつや氏、喪主は松本さんの妻で漫画家の牧美也子氏。
地球をイメージさせる青い花で飾られた祭壇の中央に一本の線路が伸び、その先にはトレードマークの帽子を被って愛猫・ミーくんを抱き、穏やかな表情を浮かべる松本さんの遺影。傍らには鉄郎とメーテルのパネルが配置されていた。

祭壇の前で弔辞を述べたのはちばてつや氏、星野鉄郎を演じた声優・野沢雅子氏とメーテルを演じた池田昌子氏、宇宙飛行士の山崎直子氏。『宇宙戦艦ヤマト』『銀河鉄道999』(TV版)の主題歌を担当したささきいさお氏と劇場版『銀河鉄道999』の主題歌を担当したゴダイゴのタケカワユキヒデ氏からは、それぞれ献歌が捧げられた。

会場内には松本さんの軌跡を振り返るパネルや愛用品の数々が飾られ、999号の機関室を再現した展示や999号の車窓で車掌がファンからの手紙を受け取るコーナーなども設置された。
14時からは一般の献花も開始されて多くのファンが行列を作り、それぞれに自身の青春を彩ってくれた松本さんに最後の挨拶を告げていた。

〈銀河葬〉の名にふさわしく壮大で、同時に人の心のぬくもりを感じさせるような……松本零士さんの人柄や作風を反映した「お別れの会」。
果てしない宇宙と永遠のロマンを描き続けた松本さんは、その作品を愛した人々に見守らながら、無限に広がる星の海へと旅立った。

(C)松本零士/零時社
--{ちばてつや氏からの弔辞、全文はこちら}--
ちばてつや氏からの「お別れの言葉」

松本零士さん
私があなたと初めて会ったのは、今からもう65年前、二人ともまだ高校を卒業した次の年。あなたは、北九州の小倉から夜汽車にのって上京したばかりで夜行列車の煙のススでしょうか、ちょっとホッペタが黒く汚れていて、でもまだ学生服の詰襟が似合う、紅顔の美少年でした。その頃私もマンガ家としてデビューしたばっかりで、食うや食わず。お互いにまだ売れない新人漫画家同士でね。

文京区本郷三丁目に東京大学があります。あなたはその赤門のすぐ近くの西陽が差す、家賃の安い四畳半の「山越館」という下宿屋に居を構えて出版社に持ち込むための原稿を描きながら、いつも、いつも、お腹を空かせていましたね。でもあなたの、青雲の志は人一倍高く、いつかそのうちに大きな連載を勝ち取って、原稿料もらったら超一流の三つ星レストランでザブトンのようなステーキを食ってやる。その時にはちばちゃんにも食わせてやるぞ……と二人で夢を語りつつ……ちょっと色っぽいヌード写真や、18禁の色っぽい本をこっそり見せ合いながら、可愛い女の子や、美しい女性を描く練習に励む毎日でした。

やがて二人ともまあ紆余曲折、短編を描いたり、イラストを描いたり、忙しい先輩漫画家のお手伝いをしたりして、苦労しながらも修行の成果が少しずつ上がって、なんとか一人前の漫画家として生活ができるようになっていきますけども……そうそう、松本さんはね親しくしていたのに私には全く内緒で、いつのまにか、同じ本郷に住んでいた牧美也子さんという美しい女性漫画家の伴侶を得て、どっしりと家庭を構えてからは順風満帆、その後『セクサロイド』や『男おいどん』などに続き、『キャプテンハーロック』、『宇宙戦艦ヤマト』、『銀河鉄道999』手がける作品が次々と大ヒット。マンガ界も大きく飛躍し、週刊誌の時代に入って、二人とも寝る時間のないほど締め切りに追われる生活が続いていましたけども1979年(昭和54年)、我々がちょうど四十歳になる頃でしたけど、戦闘機とか戦艦とか、宇宙船だとかコックピットだとか……そういうメカニックが大好きな松本さんがある日突然電話をかけてきて「超音速旅客機のコンコルドに乗りたいぞ。」と言い出して、コンコルドに乗って宇宙に近い成層圏を飛んで世界一周するからちばちゃんも一緒に行こう……と誘われました。
私は、どちらかというと成層圏もコンコルドも、メカニックも、全く興味がない人間だったし、それより何より、仕事も人一倍遅いものでしたから、週刊誌の締め切りで七転八倒していたので絶対無理だとお断りしたのですけれども…もうツアーも組んで、旅券からホテルから全て予約したから、と。もういろいろと寝耳に水で、松本さんの強引さに呆れて、あんなに慌てたことはありませんでしたよ。でも、詳しく話を聞くと、私も松本さんもちょっと親しくしていた女流漫画家さんの萩尾元さんや『宇宙戦艦ヤマト』の森雪の声を担当した麻上洋子さん(現・龍斎春水さん)も同行するけどどうする? って聞かれて、悩みましたけど……まあやむなく連載を休むことにして「仕方がなく」ですけども同行することになってしまいました。

その後も一緒に草野球をやったり、運動会をやったり、ゴルフをやったり、お互いに仕事が遅くて時間がない中、ずいぶん無理をして仕事もして、遊びもしたものです。
80歳を過ぎてからもあなたはいつも元気で、「ちばちゃん、そのうちに宇宙船に乗りたいな。宇宙船に乗って、無重力のなかで座布団みたいなビフテキを食ってみたい」と元気いっぱいでしたけど。
2年程前、イタリアのトリノで松本さんがファンに会うイベントの旅先でちょっと体調を崩された、というニュースを聞いた時は、本当に肝を潰しました。
帰国後はしっかり養生してずいぶんお元気になったと聞いていましたけども、このコロナの時代になってしまい、なかなか会うことも難しい中、今年の2月13日、奥様の牧美也子さんと、お嬢さまの摩紀子さんに見守られて、あなたのいつも夢に見る、大好きな大好きな銀河の世界に旅立っていきました。
いまさら私がいうまでもなく、あなたが漫画やアニメーションに遺してくれた業績は本当に偉大で、旭日小綬章、紫綬褒章だとか、フランス芸術文化勲章シュヴァリエ受賞だとか、挙げたらキリがありませんね。

大昔……北九州の小倉から夜汽車に乗って上京した詰襟の少年が、85年間の人生で素晴らしい大きな足跡を残したことに……今はみんなが感謝しそのことを心から賞賛し、お別れを惜しむために・・・こんな天気の悪い中、こんなにも大勢のファンや、仲間や、関係者が集まってくれましたよ。
松本さん、今あなたとお別れするのはとっても辛いですが……
もう、誰がどうみてもこれ以上ない、充実した人生、世界中の人から拍手喝采をされる、大往生でした。
長い間お疲れ様。
私もね、もう少しだけ頑張ったら、松本さんの居る銀河系を追いかけて行きますから。
そしたら今度こそ、ザブトンのようなビフテキを一緒に食べようね。
じゃあ、いってらっしゃい。


(C)松本零士/零時社

アニメージュプラス編集部

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