• 新海誠が明かした『すずめの戸締まり』キャラクター誕生のこだわり秘話
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2023.10.18

新海誠が明かした『すずめの戸締まり』キャラクター誕生のこだわり秘話

『すずめの戸締まり』 (C)2022「すずめの戸締まり」製作委員会


◆作品世界に相応しいキャラクターのバランス◆

ーーネーミング以外にも、キャラクターに関してこれまでと違う工夫をしたり、こだわったりといったことはありましたか。

新海 キャラクター原案は『君の名は。』やその前のZ会のCM「クロスロード」からご一緒している田中将賀さんですが、初期から田中さんにも脚本を読んでもらって、キャラクタースケッチ的な作業を同時に進めていきました。デザイン的な面で言えば、たとえばすずめは前半と後半で目つきというか、顔つきというか、雰囲気が変わるようなキャラクターにしたいと言っていたのは覚えています。映画のミッドポイント、ちょうど真ん中あたりで草太にあるアクシデントが起きるのですが、そこまでの前半部分が扉を閉めていく物語だったのが、そのイベントを機に、後半はすずめが自分のルーツを探っていく話になり、彼女が旅をする動機が変わるから、顔つきが変わるようにしたいと思いました。前半、少しふわっとした明るい女の子だったすずめが、後半は一点だけをずっと見つめ続けているような子に変わる。そういう話をしたのは覚えています。

草太にしても、彼のバックグラウンドは映画中では詳しくは語られないですが、“閉じ師” として誰も知らないけれど実は日本人にとっていちばん大事なことを行っている。人知れずインフラを支えている人のようなイメージですね。そしてある意味、自分自身の未来の可能性のようなものを犠牲にして仕事をしている青年。つまり「自己犠牲の人」だから、使命を帯びた宗教家のような雰囲気をデザインに入れたいということで、田中さんがイエス・キリストのようなイメージで髪の長い青年でどうかと提案をしてくれたりと、そんなやり取りをしたのも覚えています。
体格がよい、がっしりした青年にしたいというイメージも初期から持っていました。日本を旅しながらミミズのような存在と戦っているので、今までの自分の映画にはあまり登場しなかった、逞しい男性キャラクターにしたかったですね。

――登場人物のバックボーンや作中ではたす役割をより意識的にデザインに反映させて、キャラクターとして立たせたわけですね。

新海 けれど、バランスは大事で。『すずめの戸締まり』のキャラクターはいわゆるカタカナの “キャラクター” というより、日本語で言う「人物」、俳優であれば「この人」という感覚で、実在の人間と置き換えができるようなバランスがほしいと思っていたんです。アニメのキャラクターではあるけれど、ある種の実在感やリアリティ、「こういう人がいるかもしれない」という感触がほしいというバランスで作ったのが『すずめの戸締まり』の登場人物です。それこそ松村北斗くんは草太のように身体もがっしりしていますし、原菜乃華さんもすずめと見た目が重なるかなと、今から振り返ると感じます。

一方で、前作『天気の子』はもう少し、実際の役者や人間とは置き換え可能ではないバランスの映画を作りたいと思っていました。帆高や陽菜はそれぞれ演じてくれた醍醐虎汰朗くん、森七菜さん自身と重なる部分もありますが、小学生の女の子役は花澤香菜さんに演じてもらいました。大人の声優が小学生の声を演じていたのが『天気の子』だったわけですが、それは「本当は大人がやっているけれど子供だよ」と「見立てる」ようなバランスの世界観が、『天気の子』の時にやりたかったことだからです。『天気の子』はフィクション色が強い展開を描いた話で、それは現実に起きている出来事とは違うので、もう少し「漫画的」なキャラクターにする必要があったんだと思います。

逆に『すずめの戸締まり』は、実際に起きた2011年の災害と映画の世界が重なっていく話ですから、やはりキャラクターにもある種の現実感が必要で、もう少し現実との地続き感があるバランスにしたかった。ですから、たとえば幼い頃のすずめなど子供の登場人物はすべて子役の方に演じてもらいました。自分の中でそういう風に、作品ごとの世界観が求めているバランスの取り方を、いろいろ変えながら試している部分はあります。

ーーそれだけ “キャラクター” というものの重要性が、新海監督の中で増しているわけですね。

新海 映画を作り始めた初期の頃、僕が最初にやりたかったのは「物語」でした。まず物語があり、その物語を運んでいくためにキャラクターがいる。その時、キャラクターは観客と入れ替え可能なほうがいいのではないかと、かつては思っていました。たとえば村上春樹さんの初期の小説では主人公が名前を持っていないことが多かったですよね。作中で「僕」としか言わない。それはやはり、読者と主人公を入れ替え可能な存在にしたかったからだと思います。僕も同じような考え方で最初は映画を作り始めました。

でも徐々に、アニメーションで作るならアニメーションでしかできないような語り口にしたいという気持ちが強くなってきて、キャラクターが重要なんじゃないかということを遅まきながら自覚していきました。そういう意味では、自分で作品を作るごとに登場人物が “キャラクターっぽく” なっているかもしれないなという感覚はありますね。
新海誠
1973年生まれ、長野県出身。2002年、個人で制作した短編作品『ほしのこえ』で商業デビュー。以降、発表される作品は高く評価され、国内外で数々の賞を受賞する。
2016年公開『君の名は。』が歴史的な大ヒット、次作2019年公開『天気の子』も高評価を獲得し、日本を代表するアニメーション監督のひとりとなった。
最新作『すずめの戸締まり』は日本国内で観客動員1115万人、興行収入は148.6億円を記録。第73回ベルリン国際映画祭のコンペティション部門へ正式招待されるなど、海外でも高く評価されている。

新海監督 撮影/荒金大介

>>>新海誠監督ロングインタビュー後編はこちら!

>>>あの感動をもう一度!『すずめの戸締まり』名場面を見る(写真9点)

(C)2022「すずめの戸締まり」製作委員会

アニメージュプラス編集部

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