• 新海誠が明かした『すずめの戸締まり』キャラクター誕生のこだわり秘話
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2023.10.18

新海誠が明かした『すずめの戸締まり』キャラクター誕生のこだわり秘話

『すずめの戸締まり』 (C)2022「すずめの戸締まり」製作委員会


◆観客の反応から感じたこと◆

ーーこれまでの『君の名は。』(16年)でも『天気の子』(19年)でも、新海監督は観客の反応と真摯に向き合っていらっしゃいました。今作『すずめの戸締まり』に対する反応はどのように受け止めましたか?

新海 いろいろな反応がありましたが、今までの自分の作品とは少し違う反応で言うなら、アニメーションにおけるキャラクターというものがいかに大切かを今さらながらにお客さんに教えてもらったような気がします。すずめや草太、ダイジン、芹澤などいろいろなキャラクターが登場しますが、僕の今までの作品以上に「このキャラが好きだ」というファンがそれぞれにたくさん付いてくれて。あらためて「こんなに大事だったんだ」と実感しました。
もちろん今までもキャラクターというものが大事なのはわかっていたし、その意識で作っていたつもりだけれど、あらためて「草太ファンです」「芹澤ファンです」と自作のうちわまで持って劇場に来てくださる状況を見ると、キャラクターを愛してもらえるというのはこんなにも幸せで、作品にとって必要なことなんだなと教えてもらったような気持ちです。

また、先ほど、公開時が一番緊張したというお話しをしましたが、「震災」をテーマにした物語に対してどういう声が返ってくるのか。それはとても心配で眠れなくなるほど不安だらけのことでしたが、結果、嬉しい言葉、僕が聞きたかった言葉をたくさんいただけたんです。東日本大震災で実際に被災した方の声もたくさんいただきましたが、『すずめの戸締まり』を観ることができて良かったと言ってくださる方もいらっしゃって、ありがたかったです。そして国内だけではなく海外でも、地震ではないけれど自分の過去の経験と結びつけて「自分もこういう災害に遭ったが、『Suzume』(本作の英語タイトル)を観ることで救われた気持ちになった」といった声をいろいろな国で聞くことができました。

それは、やや卑近な言葉ですが、自分自身が〈癒やされる〉ような体験でもありました。僕は3.11の直接の被災者ではないですが、だけど、あの震災は怖かったし、今だって怖い――そんな自分が誰かにかけてほしかった言葉、誰かから聞きたかった言葉を、僕は『すずめの戸締まり』という映画を通じて言ったんだと思います。そして映画を観たお客さんが、今度はそれをまた別の言葉にして僕に届けてくれて。そんな経験を、国内外で何度もしました。「この言葉を聞きたかったから自分はこの映画を作ったんだな」と思うことができたし、大いに慰められました。
自分が人に言いたい言葉というのは、きっと自分が誰かに言ってほしい言葉だったりもすると思うんです。そういう風に映画を通じて、お客さんとの幸せな循環関係を得ることができたと感じています。

――映画の作り手と受け手の、一種の理想的なコミュニケーションですね。

新海 ただ、もちろん反省もたくさんあって、それは言い始めるとキリが無いです。たとえば、映画の冒頭ですずめが最初に草太とすれ違うシーン。すずめは草太を見て「きれい」と呟いて「私たち、どこかで会ったことがあるような……」と追いかけていきますが、すずめは草太の容姿に目を引かれたのではなくて、実は過去の忘れかけた記憶の中にその存在を感じたから、彼女はすれ違った瞬間に草太に心を惹かれていた、ということが終盤に明かされますよね。そういう二人の関係性を冒頭から描いたつもりだったのですが、少なくない観客に「草太がイケメンだからついて行ったんだよね」と受け止められてしまったようで(笑)。

ーー確かに、表面的にはそうも受け取れますが……(笑)。

新海 「草太がイケメンじゃなければこの物語は成立していない」、「〈ただしイケメンに限る〉の映画だよね」的な反応もあって、結構驚かされたんです。映画を最後まで観たら、イケメンだからではなく、自分の中に隠された秘密のようなものと草太が紐付いているから惹かれたということは誤解しようがないだろうと思って作ったつもりでしたが、実際には「ルッキズムを増長する映画」というような解釈も思った以上に多かったので、ああ、映画を作ることって何て難しいんだ、何て自分は映画作りが下手なんだろうと痛感しました。物語の意図を誤解なく観客に伝えることの難しさ、大衆に向けたアニメーション映画を作ることの難しさを、あらためて強く突きつけられたような気持ちにもなりました。

(C)2022「すずめの戸締まり」製作委員会

アニメージュプラス編集部

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