• 怪獣絵師・開田裕治が語る「この世在らざるもの」怪獣の尽きない魅力
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2023.04.03

怪獣絵師・開田裕治が語る「この世在らざるもの」怪獣の尽きない魅力

『ギガラ襲来』/初出:開田無法地帯HP 制作:2010年1月 (C)開田裕治


――怪獣絵を描く際に、開田さんの中で何か意識しているなどはありますか。

開田 子供雑誌のグラビアなんかだと大暴れしている絵が多くて、そういうものも良いとは思いますけれど、僕はビルや山の谷間から怪獣がニュッと姿を現しているような、その巨大な存在感に圧倒されるような構図が好きなんです。人の想像を超えた巨大な存在を目撃したことであふれてくる、恐怖や感動といったいろんな感情を体験できるような、そんな怪獣の絵を描きたいといつも考えています。
▲『鬼神の太刀』/初出:二次元VS日本刀展 制作:2013年6月 (C)開田裕治

――人の目線で切り取ったような構図が多いのは、まさにそういう狙いからなんですね。話は変わりますが、そもそも開田さんが怪獣の絵を描くようになったきっかけは何だったんでしょうか。

開田 きっかけ、というほどのものはないなあ(笑)。最初は道路に蝋石で落書きしたり、マンガを描いたりしていて……本格的に怪獣の絵と意識して描いたのは、絵日記の宿題です。夏休みに『モスラ』を観て興奮して、東京タワーのモスラの繭に原子熱線砲が攻撃しているところを描きましたね。

――そこから、怪獣絵師への道がスタートした?

開田 いや、まさか自分がこうなるとはその時は思わなかったんですよ。美大に通っていましたけれど、その時は今みたいなリアルな絵を描いていたわけじゃないですし。雑誌「宇宙船」の表紙イラストとLP『ゴジラ伝説』のジャケットを描いた時に、初めて「なんだ、ちゃんと描けるじゃん」と思いました(笑)。

――そんなメジャーな仕事が「初めて」だったんですか。

開田 (開田さんか所属していた特撮研究同人サークル)「怪獣倶楽部」の会報の表紙でペン画を描いていたので、おそらく安井尚志さん(特撮・アニメ系のフリーライター&エディター)あたりが「宇宙船」の編集長・村山実さんに推薦してくれたんじゃないかと思います。不思議と「何とかなるだろう」と思って引き受けたんですが、今考えると無謀ですよね。それまで本格的な絵は描いたことがなくて、依頼を受けてから初めて絵の具やエアブラシを買いに行ったんですから(笑)。

――当時の開田さんのお仕事では、キングレコード「ULTRA Original BGM Collection」のレコードジャケットが印象に残っています。

開田 あれは私の好き勝手にやらせて頂けた連作でしたね。マニアの人たちが見飽きているスチール写真を素材に使うよりは……というレコード制作サイドの思惑からの依頼と思いますが。こっちとしては願ったり叶ったりでした。特に注文もなかったものですから、全部違うテイストで描いているんですよ(笑)。

モノクロのペン画で描いた『帰ってきたウルトラマン』の時は、夜の西新宿のビル街を背景にしたんですが、勝手に人様のビルに入ってロケハンしたのが印象深いですね。しかも夜だとディティールがわからないから、昼間にもう一度足を運んだという(笑)。

――『シン・ウルトラマン』の、ウルトラマンとザラブが戦うシーンがあのイラストへのオマージュを感じさせるということで、話題になりましたよね。

開田 あのイラストを参照する指示があったわけではないですが、スタッフに聞くと共有イメージとしてあの絵があったそうです。綺麗な場面に仕上がっていましたね。自分の二次創作が本家の作品に影響を与えることになるとは思わなかったので、そのお話をうかがって、とても嬉しかったです。

――昨今、新作・旧作を問わず様々な形で特撮作品が注目される機会が増えている印象がありますが、開田さんはこの状況をどのように感じられますか

開田 いやいや、今や国内はおろか海外でも新作映画がやって来るんですから、もう夢のような話ですよ。私らは「怪獣映画は死んでしまった」という経験を何度もしているから(笑)。

1984年の『ゴジラ』公開時に、竹内博さん(特撮映画研究家)が青年誌のインタビューで「今なぜ怪獣映画なんですか?」と訊かれて「何言ってるんだ、怪獣映画はいつだって面白いんだ!」と叫んでいたのを思い出します。その言葉どおり、怪獣映画は全世代が観て面白いはずなんですよ。だけど、子供をメインターゲットにしての縮小再生産が続くと、どうしても飽きられてしまうし、「子供が観るもの」と思われてしまっていた。大人の鑑賞に堪えうる「平成ガメラ三部作」が公開された時でさえ、結局は子供を呼ぶための宣伝がメインでしたからね。

でも2014年に川崎に「怪獣酒場」というお店が出来たので行ってみたら、女性客が多くてびっくりしたんです。店員さんに話を訊いたらリピーターの7割が女性だそうで、その辺りから空気が変わってきた感じがありますよね。その後『シン・ゴジラ』が大ヒットを記録して、女性限定の上映会も開かれましたから。

――開田さんは怪獣というモチーフにどんな可能性を感じてらっしゃいますか。

開田 日常を一瞬で異界に変えてくれることが「この世在らざるもの」――怪獣の魅力と思っていて、そこには無限の可能性を感じますね。例えば『大怪獣のあとしまつ』みたいな切り口でも怪獣を語ることができるわけですから。

――今後、例えば「怪獣を使ってこんな絵にチャレンジしたい」という目標などはありますか。

開田 そんな大層なことは考えず毎日怪獣を描いていければいいんですが、以前友達に震災後の石巻に連れて行った時の印象を思い出して怪獣絵にしたことがありまして、そういった自分の心象を怪獣に託して描く、というのはまた挑戦してみたいですね。

――では最後に、ファンの皆さんにひと言メッセージをお願いします。

開田 ゴジラ、ウルトラマン、仮面ライダーの新作やリブートが展開して、特撮作品が一級のエンターテイメントとして認知されてきていると思います。そういう文化にどっぷり浸かって生きてきた僕がどんな作品を描いているのか、もし興味があるようでしたら足をお運びください。

あと、21日にはアニメ・特撮研究家の氷川竜介さんとのトークイベントも開催されます。氷川さんとは学生時代の頃に怪獣倶楽部を通じて知り合って、もう50年のお付き合いになるのですが、対面で僕の絵について話すのは初めての機会となるので、僕自身とても楽しみにしています。

>>>存在感と世界観に圧倒される開田裕治さんの怪獣画を見る(写真8点)

アニメージュプラス編集部

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