• 異才・今 敏の傑作『千年女優』を生んだ三つの言葉【日曜アニメ劇場】
  • 異才・今 敏の傑作『千年女優』を生んだ三つの言葉【日曜アニメ劇場】
2023.01.14

異才・今 敏の傑作『千年女優』を生んだ三つの言葉【日曜アニメ劇場】

(C)2001 千年女優製作委員会


前述のアイデアを元に具体的なストーリーが作り上げられていく過程も、前出書『KON’S TONE』には記されているが、そこで重要なポイントになるのが、今監督が参加したある飲み会での出来事。
20代前半の活気溢れる若者たちと酒席を共にしていた今監督が、先に挙げたアイデアを語って聞かせたところ、「いろいろな時代が出てきたほうがおもしろい」などいろいろな意見が出て、さらに「この主人公の生涯を貫くテーマはないか?」という話に発展、「好きな男を待ち続ける女」というアイデアも出た。
このアイデアを「追いかける女」というより積極的、能動的な方向にアレンジし、三つめの言葉が生まれた。

「好きな男を追いかけて、いろいろな時代を駆け抜ける女の妄想一代記」

今監督は「こう考えると、何やら面白くなるような気がしてくる」とも記している。

こうして生まれたのが『千年女優』だ。
30年前に姿を消した伝説の大女優・藤原千代子が振り返り語る、自身の半生。
その記憶は、彼女自身の私生活と出演した映画が入り混じった幻想的な物語として語られていく。
ある “男” との偶然の出会いと別れーーやがて女優となり数多くの映画に出演しながら、男の行方を追い続ける千代子。
現実と虚構、過去と現在を交錯させながら描かれていく、一人の女性=女優の人生。
そこには確かにアニメーションでしか描けない、そして今 敏でしか生み出せないものがある。

戦国時代から未来まで、様々な世界で大事な人を追いかける千代子の姿は、様々な映画という虚構の中で彼女が演じた “役” であると同時に、彼女自身が生きた現実の時間でもある。
さらに言うならば、そのすべてが1本の映画の中に描かれた虚構である。
しかし、アニメーションの圧倒的な力によって観客が映画の中に引き込まれた時、その虚構は生々しい現実感を生み出す。
アニメーションという “騙し絵” が可能にするめまいを覚えるような感覚。
そして、虚実が混沌とした世界をただひたすらに、大事な人を追いかけて走り続ける千代子のエネルギー。
それが『千年女優』という作品の魅力。
今 敏監督の作品が与えてくれる唯一無二の快感だ。

(C)2001 千年女優製作委員会

アニメージュプラス編集部

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