• 『新・幻魔大戦 完全版』関係者が語る平井和正×石ノ森章太郎コラボの魅力
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2024.04.06

『新・幻魔大戦 完全版』関係者が語る平井和正×石ノ森章太郎コラボの魅力

<完全版> 新・幻魔大戦 COMIC&NOVEL  上・下 (C)平井和正/石森プロ (C)平井和正


――物語の面ではどういうところに魅力を感じられましたか。

本城 『新・幻魔大戦』は、幻魔に滅ぼされた別の世界線にいる人類が、タイム・リーパーを過去に送り込んで超能力者の子孫を増やすことでそれに対抗しようという話で、そのコンセプト自体が当時としてかなり新しかったですよね。時系列的には少年マガジン版の『幻魔大戦』の前にあたり、これから主人公の東丈を産み出していこうという物語です。
▲『<完全版> 新・幻魔大戦 COMIC&NOVEL』より

早瀬 さっきお話したとおり、読者だった自分は最初そこに驚いたわけですが、いざクリエイターの立場になると、その気持ちがすごく理解できたわけです。新しい読者に向けて、新しい作品として構築し直したということですね。

本城 その少年マガジン版の『幻魔大戦』でも幻魔の力はあまりにも強大で、月が地球に落下してくる衝撃的なラストでした。その後書かれた小説版『幻魔大戦』は、当初少年マガジン版『幻魔大戦』のノベライズだと思われていたのですが、実際には、少年マガジン版『幻魔大戦』が滅亡した後の、さらに別の世界線の物語であることが明らかになっています。小説版『幻魔大戦』と同時期に書かれた『真幻魔大戦』は、この『幻魔大戦』滅亡後のさらに別の世界線の物語ですので、このような点でもいろいろと先取りしている作品群でした。

――妊娠・出産が勝敗の鍵を握るという部分に、現在注目されているフェミニストSFの側面も感じられますね。あと新しい試みという点でいえば、本作には月影という狼男のキャラクターが登場していて、平井先生のもうひとつの代表作『ウルフガイ』シリーズとのリンクがある点も見逃せません。

本城 『新・幻魔大戦』の連載前に、講談社「ぼくらマガジン」で『狼の紋章』の元となった(『ウルフガイ』画:坂口尚/1970~1971年)が連載されているんですけれど、同じ時期に石ノ森先生も同誌で『仮面ライダー』の連載をやられているんですよ。その辺りの繋がりも面白いですよね。

――幕末時代を舞台にするというのも思い切った転換です。
▲『<完全版> 新・幻魔大戦 COMIC&NOVEL』より

本城 石ノ森先生はその前に『佐武と市捕物控』(1966~1972年)を描かれているじゃないですか。過去に戻るだけならどこを選んでも良いと思うのですが、江戸時代を選ぶことで石ノ森先生の絵の魅力をさらに作品に活かせる、そういう目線もあったんじゃないでしょうか。

早瀬 なるほど……少年マガジン版『幻魔大戦』で主人公・東丈は非常にお姉さんを大事にしているキャラクターとして描かれているのですが、そこには自身が漫画家になることを後押ししてくれた唯一の肉親である、早世されたお姉さんを大切に思っていた石ノ森先生の姿が投影されていたという話を聞いています。なので、『新・幻魔大戦』でも平井先生からそのような気配りがあった可能性はあると思います。

それを裏付ける話としまして、私が『幻魔大戦Rebirth』(2014~2019年)という作品を七月鏡一先生と一緒に執筆した時、改めて当時の資料を社内で探してもらったところ、平井先生から石ノ森先生宛に「『幻魔大戦』をSFマガジンで描きませんか」と打診する私信の封書が見つかったんです。今回の初出掲載版に初めて掲載するのですが、これは一見に値する貴重なものだと思います。

――そちらの私信も読ませて頂きましたが、平井先生の熱い思いを感じられましたね。

早瀬 そうですよね。後に石ノ森先生は独自に『神話前夜の章』(1979~1981年)を描き、平井先生は小説版『幻魔大戦』『真幻魔大戦』(1979年)を展開されていくので割と世間の受け取り方としては「二人は仲たがいをした」という感じになっていると思うんですが、今回の本にも収録されますが小説版『新・幻魔大戦』に石ノ森先生は挿絵を描いていますし、実際にはそんなことはなかったということをこの私信が証明してくれると思います。出版社側からの依頼ではない「もう一度二人で一緒に作品を作ろう」という文面から、二人の信頼関係をくみ取って頂けるのではないでしょうか。
▲『<完全版> 新・幻魔大戦 COMIC&NOVEL』より 石森章太郎が手がけた小説版の挿画

本城 先ほど早瀬さんから『新・幻魔大戦』のコミックで平井先生の文字原稿部分が徐々に増えていったという話もありましたが、これは当時『仮面ライダー』がブレイクしてお忙しい石ノ森先生の状況を慮って、最初からテキストでフォローしようと思っていたのではないでしょうか。「劇画ノヴェル」というスタイルを選んだのも、そんな理由があったのかもしれませんね。

――最後に、改めて今回の『<完全版> 新・幻魔大戦 COMIC&NOVEL』をどんな風に楽しんでほしいとお思いですか。

早瀬 ぶっちゃけますと、小説版と併せて読み進めていけば石ノ森先生が描き間違えたところを見つけることができると思います。明らかなアシスタントのミスだけは今回修正させてもらったのですが、石ノ森先生の描いたミスはそのまま残してあります。そういう作家の仕事やアーカイブ的な部分も含めて楽しんでいただけるのではないかと思います。

本城 『新・幻魔大戦』はその後ムーブとなったいわゆるセカイ系、異世界転生、マルチバース、世界線といったキーワードの元祖的作品だと思いますので、そういう目線で読み進めると新しい発見があるのではないでしょうか。劇画ノヴェルと小説、そのどちらも楽しんでもらえると幸いです。

>>>『<完全版> 新・幻魔大戦 COMIC&NOVEL』本文・収録イラストなどを見る(写真12点)

(C)平井和正/石森プロ
(C)平井和正

アニメージュプラス編集部

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