• 片渕須直最新作『つるばみ色のなぎ子たち』ここまでわかった作品世界
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2023.05.22

片渕須直最新作『つるばみ色のなぎ子たち』ここまでわかった作品世界

(C)つるばみ⾊のなぎ⼦たち製作委員会/ クロブルエ


片渕監督が本作に挑む姿勢は、公開されたメイキング映像からも感じ取ることができる。
この映像では、片渕監督がスタッフと共に、実際に十二単を着用してみたり、電気が使われていなかった平安時代を想定した松明の使い方を試したり、つるばみ色の染色を体験したりする様子が紹介されている。
さらに片渕監督によれば、スタジオで「虫の培養」まで行ったという。

「平安時代に黒つるばみの服を着ているのと関係があるのですが、マラリアが流行って沢山の方が亡くなっているんです。マラリアは蚊が媒介するのですけど、蚊の幼虫はボウフラです。会社の中でボウフラを養殖して、それを観察してそこから作画を起こしました。
めちゃくちゃ大変ですが、想像で描くのと違っていて、それを描いていたスタッフはコントレールで初めて仕事を始めた新人の方だったんですけど、そういう風に原画を描くまでに成長しました」


『この世界の片隅に』の際も片渕監督は膨大な量の資料を収集、研究し、当時を知る存命の人々にも数多く取材して証言を集め、“昭和20年の広島”の空気感やそこに生きていた人々の息吹をアニメーション映像で生々しく表現して見せてくれた。
『マイマイ新子と千年の魔法』でも、舞台である昭和30年代の山口県の風景とそこに重ねられる千年前の平安時代の町の風景を緻密に描き出され、現実と空想が折り重なる不思議な物語が活き活きと展開された。

「ひとつひとつのことは画に起こしていたら通り過ぎてしまうようになるかもしれないんですけど、以前作った『この世界の片隅に』がひとつひとつ戦争中のものを解き明かして画にしていった時に、そこに住んでいる、その中に生きていた人たちの気持ちとか人間性が分かってきました。今回も調べていく中で1000年以上前の遠い昔の平安時代に住んでいた人たちが、我々とどこが同じでどこが違うのかというのが見えてきて、その見えてきた人々の物語にしたいなと思っているわけです」

片渕監督は本作に挑む自身の姿勢を、そんな風に語った。
絵として、アニメーションとして、可能な限り精緻に表現するーーつまり “世界を描く”。
そうすることで、その世界に生きていた人の心を活き活きと表現するーーつまり “人を描く”。
そんな片渕監督の姿勢は、今、この瞬間の現実には存在しない世界を絵で表現するというアニメーションの可能性を体現しており、そこにこそ片渕監督作品の魅力はあると言えるだろう。
『つるばみ色のなぎ子たち』も間違いなく、平安時代という誰も実際には見たことのない世界と、そこに生きる人を……タイトルから想像するならば、少女たちを活き活きと描き出してくれるだろう。
片渕監督がイベントの締めくくりに述べた力強いメッセージが、その期待は間違いなく叶えられると確信させてくれる。

「『絵を描く』というその前に、『何を描くのか?』というところから始めていて。それだったらこんな風に書いていくべきだなという発見から始めていってるスタジオです。そういうことをやっているからではなく、これから画面を作っていくのに大変な作業が待っているので、題名をお披露目しましたけれど、完成はまだまだ何年かかかることになる……かからないようにしたいけど、かかってしまうことになるんです。そういう時に一緒に仕事してくださるスタッフを募集しながら、まだまだ人の層を厚くしながら作っていきたいと思います。

『コントレール』というのは飛行機雲という意味なんですけど、僕は早いものでアニメーションを始めて40年以上経って、60歳を超えてしまったのですが、そんな50代・60代のベテランと20代の若い人たちが一緒にやっていくスタジオです。僕たちは前を飛んで後ろに飛行機雲を残すけど、それを自分の糧にして成長して頂いて素晴らしいアニメーション映画の作り手たちになってもらえるといいなと思って若い人たちと仕事をしています。まだまだそういう人たちと仕事をしていって、完成するまでには時間がかかりますけども『つるばみ色のなぎ子たち』をよろしくお願いいたします」
▲片渕監督(左)と大塚学プロデューサー(右)

(C)つるばみ⾊のなぎ⼦たち製作委員会/ クロブルエ

アニメージュプラス編集部

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