• 「必殺シリーズ」深掘りインタビュー集の著者が語る作品愛と執筆裏話
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2023.04.27

「必殺シリーズ」深掘りインタビュー集の著者が語る作品愛と執筆裏話

『必殺シリーズ異聞 27人の回想録』(立東舎)

金をもらって恨みをはらす殺し屋たちを主人公に、テレビ界の常識を覆す設定や展開、斬新な表現手法で人気を博したアウトロー時代劇「必殺シリーズ」――その50周年を記念して2022年に刊行された高鳥都氏の書籍『必殺シリーズ秘史 50年目の告白録』(立東舎)は必殺ファンの熱い支持のみならず、数多くの高評価を集める話題作となった。
その刊行から1年を待たずして発売された高鳥氏の続刊『必殺シリーズ異聞 27人の回想録』(立東舎)は、さらにディープなスタッフ&キャストインタビューをぎっしりと詰め込んだ、前作を上回る大著となった。「必殺シリーズ」への並々ならぬ熱意を本書にぶつけた高鳥氏に、お話をうかがった。

――初の単著『必殺シリーズ秘史 50年目の告白録』は重版を重ね、映画本大賞ベストテン入りを果たすなど大きな反響を呼びました。このような状況をどのように受け止めましたか。

「ありがたかったですね。山﨑努さんのインタビューを除くと、現場のスタッフ中心だし表紙もシルエットだし、『こんな地味な本で大丈夫か』と何人もの出版関係者から心配されました。ひさしぶりの必殺本ですし、もちろん出すからにはそれなりの勝算もあったので『みんなコマーシャリズム的な、あるいは映画秘宝的な、ド派手な感性に毒されてるのかなぁ』と思いましたが……まぁ、それは口には出せず心の中でブツブツと(笑)。

フタを開けてみると予想以上のヒットになりましたし、書評やSNSなどで各界の方々からも好評を得ることができました。フィルムで撮影されたテレビドラマ、いわゆる“テレビ映画”の本なので、映画本大賞のランクインは予想外だったのですが、何百冊の中から10位という程よいポジションに選んでいただき驚きました。わたし自身の人生に比べても『たいへん愛されている本だなぁ』と、途中から嫉妬を覚えたくらいです」

――多くの方々から熱い感想が届けられたと思いますが、特に印象的だったものは?

「前回アニメージュプラスさんの取材で<最近は『読めば人生の役に立つ』という実用性が映画本にも求められるみたいですが、そんな内容にはまったくなっていません>と語っていて、いま読むと顔から電気が点きそうですが、それはさておきネットのレビューに『必殺シリーズのファンだけでなく、ビジネス自己啓発本としても秀逸だと思います!』というものがあり、いかに著者の言うことが信用できないかを痛感しました。

あとは東大教授の加藤陽子さんが毎日新聞の『今年の3冊』に選んでくださったのには心底びっくりしました。さすがにアカデミズム系の映画評論界隈からはスルーされていたのですが、必殺ファンの作家や漫画家の方々だけでなく、こんな意外なところからの評価がいただけるとは……」

――前作から間を開けずに届いた本書ですが、今回の企画のコンセプトは?

「前回は京都映画という撮影所のスタッフに絞ったので、今回は脚本家や音楽、題字など対象を外に広げました。撮影所だけが“現場”ではないということです。いっぽう最初にご登場いただいたのが現場のボスである櫻井洋三プロデューサーで、こちらは昨年休刊した『映画秘宝』の連載をもとにしたものですが、分量の問題もあって前著に掲載することができず、ようやく本にまとめることができてよかったです。御年90の櫻井さんからは『しっかり売らなあきまへんで!』と叱咤激励をいただきました。

最初が松竹の剛腕プロデューサーだった櫻井さん、最後が朝日放送のエース監督だった大熊邦也さんという構成で、竜虎相打つような視点の違いも島耕作的な読みどころだと思います。残念ながら年齢などの問題で取材NGの方もいたのですが、そこは故人以外の候補者に全員ご登場いただけた前回が幸運すぎたんでしょうね」

――取材対象を選ぶにあたってどんな意図があったか、また留意したことは?

「今回は『どこまでも行こう』と、なるべく範囲を広げたいと思いました。R-1からR-4の4章仕立てで、これは前回同様1時間ドラマの放送フォーマットに準じたものなのですが、R-3は各パートなんでもありの解放区です。

例えば、東洋現像所(現・IMAGICA Lab.)のタイミングマンだった須佐見成さんにもお話をうかがったのですが、タイミングというのは色彩補正が仕事で、編集されたフィルムにバラツキがあるのを整える役職です。同じシーンでもロケ現場の天気や時間でカットごとに色や明るさが異なるケースもありますから、それを合わせたり、あるいは視覚的効果として夕方なら赤みを足したりするんです。

昔の作品は “東洋現像所” という社名しかクレジットされておらず、須佐見さんのことは前回カメラマンの藤井哲矢さんの取材中に教えていただきました。でもページ数の問題で惜しくもカットした部分だったので、あまり知られていない技術の話を直接うかがえてよかったです。当たり前ですが、エンドクレジットに名前が載っている方だけがスタッフではありませんから」

――取材時・または執筆時の際の印象的なエピソードが何かありましたらお聞かせください。

「前回は撮影所の会議室をお借りしての取材が多かったのですが、今回は京阪神から関八州まで担当編集者とあちこち渡り歩きました。自宅ならではの成果が出た取材もあったと思います。で、スチールも多く使っており、レギュラー俳優の数も3倍、イケイケドンドンでやってたらかなり予算オーバーしたそうで……。
必殺シリーズの現場も最初は大赤字、櫻井プロデューサーの『赤字赤字赤字で、溜まった赤字が6000万円。さすがにびっくりしまんがな!』という発言を今さら実感しました(笑)」

――確かに、前著のキャスト取材は山﨑努さん1名でしたが、今回は一挙に3名に増えています。その理由は?

「読者の方から『もっと俳優さんのインタビューが読みたい』という意見がめっちゃ多かったからです。中尾ミエさん、中村敦夫さん、火野正平さん、三者三様のインタビューになったかと思います。
かつて辰巳出版の『時代劇マガジン』が各作のDVDリリースに合わせて必殺シリーズの俳優インタビューを行っていて、正直それを単行本化するのがベストだと思うのですが、今回はそちらとダブらないキャストで、かつ自分が話を聞きたくて事務所のOKが出た方にお話をうかがうことができました。

ライバル番組の『木枯し紋次郎』に主演した中村さんがアウトロー時代劇の革新性について論じる一方で中尾さんはいきなり麻雀、火野さんは麻雀と競艇と競輪の話をしているので……あ、中村さんも競輪の話はしてますね(笑)。それぞれ共演作もあり、人間交差点めいたインタビューになっていると思います」

――本書には春日太一さん、坂井由人さんの取材原稿も収録されていますが、どういう経緯から掲載されることになったのでしょうか。

「脚本家については亡くなられている方が多く、かつてLDの解説書で安倍徹郎さんほか4名に坂井さんが取材されていたので、版元経由でそちらを再録させていただきました。関係各位やご遺族の許可もいただけて、ありがたかったです。
野上龍雄さんについては過去に春日さんが取材されていたので、前著で山田誠二さんに山内久司プロデューサー、仲川利久プロデューサーという故人の思い出を聞いたように、野上さんの話をうかがおうと思ってご相談したら、なんとインタビューごとお蔵出しで提供してくださったんです。
野上さんは『必殺仕置人』第1話『いのちを売ってさらし首』を執筆し、藤田まことさん演じる中村主水を生み出した脚本家でもあるので、本当に貴重な内容を残すことができました。またキャリアの浅い自分にとって、おふたりの取材原稿そのものも勉強にもなりました」

アニメージュプラス編集部

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