• 『ぼくらのよあけ』脚本家・佐藤大が明かす原作愛と執筆現場の裏話
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2022.10.22

『ぼくらのよあけ』脚本家・佐藤大が明かす原作愛と執筆現場の裏話

(C)今井哲也・講談社/2022「ぼくらのよあけ」製作委員会


【シナリオを起こす際に意識したこと】

――佐藤さんは原作のどんな部分に魅力を感じましたか。

佐藤 全体の印象としては「ひと夏の少年たちの冒険」という、すごくジュブナイル的な印象なのですが、そこに団地という懐かしいモチーフ、10代の女の子たちの距離感の難しさ、人間の営みを地球外生命体とAIが見守るというシンギュラリティの側面など、原作発表当時から考えると、とても先鋭的かつ重層的な要素がたくさん入っていたと思います。
読み返す度に読後の印象もどんどん深くなっていって、「これはすごい作品だな……!」と思いましたね。

――そんな原作の魅力をさらに引き出すために、どのようなことを意識しながらシナリオ作業に向かわれましたか。

佐藤 先程も言ったとおり、本作では尺の関係上、原作そのままのアニメ化はできませんでした。さらにエピソードを切っていくことになるのですが、物語の中でそれぞれのエピソードが複雑に絡み合っているので、1つのセリフを抜くとジェンガみたいに崩れていっちゃうんです。キャラクターの心理描写が唐突なものにならないよう、そこを慎重に調整していく必要がありました。最終的にセリフの量はかなり整理されてしまったのですが、それによって絵の魅力や声優さんの演技がより際立つはずだ、と意識して削いだ結果です。

こういった作業感覚は、スタッフ間で共有できないとかなり苦労するのですが、本作においては今井さんも監督もクレバーな方だったので、現場はとてもやりやすかったです。

【佐藤さんのお気に入りシーンは、本編から削られる可能性があったエピソード!?】

――作品の舞台となった阿佐ヶ谷住宅(2013年に解体)は、もともとご存じでしたか。

佐藤 もちろん、団地団のたしなみとして存じ上げておりました(笑)。日本で最初にできた団地として有名な場所だったので、あった当時は普通に散歩したり、住民の方が映らないように写真を撮ったり、あちこち探索したりして楽しんでいましたね。

――では、本物の阿佐ヶ谷住宅をご存じの佐藤さんから見て、本作で描かれた団地の描写はいかがでしたか。

佐藤 プロット打ちの際に当時住んでいた方に取材して、どういう生活をしていたのかお聞きしたり、取り壊される前の阿佐ヶ谷住宅の写真を貸していただいたりしたので、実際の阿佐ヶ谷住宅に近いものを作れたんじゃないかなと思います。取り壊されて今はもう無い団地を作品の中に残せて、とても嬉しいです。

あと最後のほうに、公園に集まる場面があるのですが、そこが阿佐ヶ谷住宅でないと表現できないシチュエーションになっているんです。住んでいる人たちが集まりやすい公園の様子が見事に再現されていて、「さすが!」と感心してしまいました。

――では最後に、佐藤さんが個人的に気に入っているシーンを教えて下さい。

佐藤 缶蹴りをしているシーンで、銀くんと二月の黎明号が話しているところはとても気に入っています。あそこのシーンは「本編に要らないんじゃないか」という話が囁かれるくらい、削られるかどうか危ういシーンだったんです。でも僕は、あのシーンは絶対に必要だと思っていたんです。

あの2人のシーンは、人の死や二月の黎明号を救おうとする子供たちの思い、そして自分の父親を亡くした時の話を初めてする銀くんの内面が描かれた、原作でもとても大事なシーンだと思っています。あのエピソードが物語中盤にあることで、映画がグッと良くなると思ったので、残せて良かったです。岡本(信彦)さんと朴(ロ美)さんの演技も最高でした。

>>>『ぼくらのよあけ』場面写真をすべて見る!(写真20点)

※朴ロ美の「ロ」は、正しくは「王」へんに「路」です。

寺林 沙樹

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