• 『ククルス・ドアンの島』スタッフが徹底的にこだわった「安彦イズム」
  • 『ククルス・ドアンの島』スタッフが徹底的にこだわった「安彦イズム」
2022.06.06

『ククルス・ドアンの島』スタッフが徹底的にこだわった「安彦イズム」

(C)創通・サンライズ


――実際に完成した映像は、近年のアニメ作品に顕著な撮影処置をたくさん重ねた映像ではなく、絵の力で勝負するシンプルな仕上がりになっていたように感じました。

イム そこはまさに意識して務めた部分です。私自身は、当時の放送をリアルタイムで観ていたわけではないので、多分当時のファンとは作品の捉え方が違うと思うんです。総作画監督の田村篤さん、エフェクト作画監督の桝田浩史さんをはじめ、『機動戦士ガンダム』を当時観ていた世代のスタッフに作画やそれ以降の工程について様々な意見を求めました。

最初は単純に撮影処理を減らす方向で作り込んでいったんですが、むしろ処理をほどよく入れないと昔の感じが出ないことがわかりました。作画がデジタルになった影響で、仕上がりの印象が違ってきたことが理由らしいんですね。なので、実は細かく処理を入れているんです。処理があまり無いように見えたなら、試みは成功していると思います。

――なるほど。最新技術を駆使してクラシカルな映像を目指されたということですね。

イム そういうことです。例えば爆発のシーンで舞い上がる粉塵の表現は、パーティクル・システムという粒子の動きをコントロールする方法で入れ込んで、デジタルなんですが昔の撮影処理っぽく表現しています。
逆にエフェクトに関しては、撮影処理が控えめな昔のスタイルに寄せました。例えば爆発の動きに関しては、安彦さんの描くフォルムを見せたいということで、桝田さんが『巨神ゴーグ』などを観返して、手描きでそれを再現しようとこだわっています。素材によってそれぞれアプローチが違うので、撮影は本当に大変だったと思いますね。

――言われてみれば、岩の割れ方など安彦監督が自身の漫画で描かれている表現が取り入れられていた気がします。

イム 安彦さんのフィルムを再現したい、という気持ちで集まったスタッフなので、そういうところは各々がすごく研究して、なるべく反映しようとしているところがありました。
おそらく、今のフィルムに慣れている人たちがそれを観ると「昔っぽい」「古い」と思うところもあるんだと思います。でも、そうした表現があるからこそ安彦さんのフィルムらしさがある。そういった「安彦イズム」を残しつつ、初めて観る人にも「面白い」とスムーズに受け入れられるようにしたい。そこを何よりも大切にして作業を進めていきました。

――安彦監督とお仕事をされてみた感想はいかがですか?

イム 安彦さんにとっては、私はヒヨコにもなっていない、タマゴのような存在だと思いますが、今回のようなお仕事は二度とない経験ですし、御一緒できて本当に光栄でした。お会いする前は、レジェンドの方だし「どのように接すればいいの?」とちょっと怖がっていたんですが、実際にお会いするとすごく優しいし、お話もしやすくて。「これはどう思った?」と一緒に仕事をするスタッフの意見も聞いてくれるし、それを取り入れようとする姿勢が印象的でした。その一方で、クリエイターとしていくつになっても満足されないお気持ちを持たれているんだな、と感じるところもありました。

今作では、試写が終わった段階で、怒られてもいなければ褒められてもいないのでモヤモヤしているんですが(苦笑)、「今度、美味しい酒を飲みに行こうね」と言っていただけたので、たぶん認めてもらえているんだろうな、と前向きに考えるようにしています。

――では最後に、ファンの皆さんへメッセージをお願い致します。

イム この作品が、ガンダムファンの皆さん全員を満足させることはできないかもしれませんが、少しでも多くの方に「ホワイトベースにまた乗ることができたな」と思ってもらえる作品になっているといいなと思っています。観ながら「懐かしいな」「今作ったらこうなるんだ」「新しい発見があったな」と感じてもらえれば嬉しいですね。
次ページ > 
>>>ホワイトベースの仲間と再会!『ククルス・ドアンの島』名場面を見る(写真9点)

(C)創通・サンライズ
『ククルス・ドアンの島』作品情報はこちら!

アニメージュプラス編集部

RECOMMENDEDおすすめの記事

RELATED関連する記事

RANKING

人気記事