現在公開中の映画『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』では、安彦良和の監督作業をサポートする形で、これまで多くのサンライズ作品で演出や監督を務めてきた韓国出身の女性演出家、イム ガヒが副監督を務めている。
演出を統括する立場として、安彦良和の思いをどのように受け止めて、フィルムを作っていったのか? イム副監督にお話を伺うロングインタビュー前編は、副監督の仕事の内容、そして本作の演出でこだわった部分について語ってもらった(全2回)。
――今作はいわゆる「ロボットアニメ」ですが、ロボットものやメカものの作品は、もともとお好きなんですか?
イム 韓国に住んでいた頃から、メカものが大好きで。韓国でもサンライズが作っていた「勇者シリーズ」などのロボットものが多く放送されていて、中でも『絶対無敵ライジンオー』が一番好きでした。その他にも、『新世紀GPXサイバーフォーミュラ』、『魔神英雄伝ワタル』なども良く観ていましたね。
世代的には『美少女戦士セーラームーン』がリアルタイムで放送していて、もちろん女児向けアニメもよく観ていました。でも、男の子向けのアニメも好きでよく観ていたということもあって、親からは「この子、大丈夫かしら?」ってすごく心配されていました(笑)。
――だから日本に来てアニメを作る仕事に就いても、ロボットアニメに抵抗がなかった。
イム そうですね。本作に関わる前に、ガンダム関係では『ガンダムビルドダイバーズ』や『ガンダムvs ハローキティ』なんかをやらせていただきました。ロボットものだと、『魔神英雄伝ワタル 七魂の龍神丸』も「ワタルは大好きなのでやらせてください!」と言って演出として参加したりしています。
――女性でロボットものの演出を手掛けている方と言えば、サンライズ作品で活躍している加瀬充子さんがいらっしゃいますね。
イム そうなんですよ。加瀬さんは好きな作品を多く手掛けている方なので、お会いできた時はものすごく嬉しかったです。一緒にお仕事をしたいとも思っていたので、『TIGER & BUNNY2』に関わらせてもらえて本当に楽しかったです。
加瀬さんはとてもパワフルな方で、いろいろお話を聞けたのも良かったです。加瀬さんと安彦さんは、性格などは全然違いますが、監督のタイプとしては何となく似ているところがあって。お二人ともとても大きい心の持ち主で。
――お二人とも自分でこだわりたい範囲はしっかりと見るけれど、そこから先は現場のアニメーターや演出に任せる仕事のされかたをしていますね。
イム そこが凄いんですよね。監督によっては、自分の思う通りにやってほしいという方もいて、引き受ける側としてはオーダーされたままにやれば無事に終わるので、作業自体はやりやすいです。
でも、加瀬さんや安彦さんの場合は、「自分で考えてみて」という感じなんですよね。だから、『ククルス・ドアンの島』に関しても、安彦さんからのオーダーというのは特に無くて。強いて言うなら、チェックの順番が逆だったということですね。
――それはどういうことですか?
イム 通常は演出が原画などをチェックして、その後監督に渡すんですが、今回は安彦さんが見てから私がチェックするという形でした。手元に来るのは安彦さんが既に見られた素材なんですが、安彦さんは「その通りにやってほしいわけじゃない」と仰るんです。だからどうすればいいのか、すごくとまどいましたね。結果的には「チェックしたものをもっと良くしていく」というやり方になっていきました。
――それはプレッシャーですね。
イム シャアじゃないですけれど、「見せてもらおうか」という感じが怖くて(笑)。安彦さんが望まれているものをしっかりキャッチして、それを守りつつ他の部分をどこまで楽しく盛り上げられるか……というのが、すごく難しいところでした。
当然ながら「ここまでやっても大丈夫だろう」と思ったら、仕上がりチェックの際に「ここは違うよ」「ちょっとやり過ぎ」と言われるところもあったので。でも、基本的には任せてくださるので、そこは本当に凄いなと思いましたね。
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