◆正反対のふたりが出会って生まれる“変化”◆――主人公・柊には監督ご自身の10代も反映されているわけですね。柴山 もちろん。ただ、あまり自己投影しすぎないようには心掛けました。自分自身がかつて抱えた何かをこの作品で解決しようと考えていたわけではないので。とはいえ、やはり作っている過程で投影はしてしまったと思います。「こういうシチュエーションだと、こう言うのが正解なんじゃないか」みたいな基準が、柊と僕自身で似ているところはある気がしますね。
――そして同時に、今の10代の子たちが抱えているであろう何かも投影されている。柴山 はい、そこが重なればいいなという思いで描いています。
――もうひとりの主人公であるツムギは、どういうキャラクターとして描こうと思われたのでしょうか。柴山 ツムギは強いキャラクターとしてどんどん物語を引っ張っていってほしいというのが、まずありました。でも、行動の動機は「お母さん探し」なので、多分、根っこは“普通の子”なんです。お母さんに会いたくて、でも、自分はお母さんに置いて行かれたんじゃないのかとも思っている。そして、なぜいなくなった理由を教えてくれなかったんだろう? という疑問が強い。つまり「気持ちは伝えるべきだ」と思っているところがあり、気持ちを隠しがちな柊にモヤモヤしている。その柊との違いを対比的に描ければいいなということで、キャラクター性が決まっていきました。
――柊が空気を読みすぎて本心を言わない子だとすれば、ツムギは空気を読まずに思っていることをどんどん言葉にし過ぎてしまう子。柴山 そう言えますね。そんな二人が出会ったことによって、お互いに何かに気付いていく。柊はツムギを通じて自分の本当の気持ちに気付かされ、それを言葉にすることの大事さにも気付く。ツムギは柊を見ているうちに、優しさ故に“隠し事”をしているということもあると気付き、受け入れられるようになっていく。
――二人の関係や成長は、本作の重要なポイントですね。柴山 最初はお互いに認められないものがあり、「こいつ、何なんだ?」と感じ合っている二人だと思います。それが一緒に旅をしているうちに、相手にも何か思っていることがありそうだと気付いていくことで少しずつ関係値が変わり、後半では二人がそれまでにさまざまな思いを抱えながら過ごした“時間”が試される――そんな物語になっていると思います。そして、お互いを思いやって行動し、心がつながっていった先に少し見えてくる恋心……そんな変化を描くのも魅力的だなと思っていました。
――出会ってすぐに相手が気になって、ほのかな恋心が生まれて……ではなくて。しっかり積み重ねた先で、ようやく自分たちの気持ちに気付き始める。柴山 その様子をキュンキュンしながら観ていただくのも楽しいと思います(笑)。
――そんな二人を演じるキャスト、柊役の小野賢章さんとツムギ役の富田美憂さんを選んだ理由も教えてください。柴山 小野さんは『泣き猫』にも出演していただいて、最初から信頼していました。誠実でありつつも、その奥に何か陰を持っているという奥行きを感じる声で、それが柊にぴったりだな、と。ツムギは先ほどお話ししたように物語を引っ張っていく強いキャラクターにしたかったのですが、富田さんの声には唯一無二な、主役らしい説得力があり、なおかつ、その奥に優しさがあると感じられたのがポイントでした。今回の映画では柊とツムギの「思い合いながらのすれ違い」を描いていますが、それを表現する繊細な掛け合いも、お二人なら上手く演じていただけると思いました。
――実際、お二人ともに期待通りで?柴山 もう、期待以上です。お二人にお願いして本当によかったと思います。
写真:小野賢章(左)、富田美憂(右)