●九郎と奇跡のやりとりの妙●ーーそのあと主人公・九郎のアパートでの日常に場面が転換して。彼のひと味もふた味も違う存在感が見られました。坂 変わってますね、九郎。
畠中 でも、確かに変わっているけど「こういう人、いなくもないな」という絶妙なラインと言うんですかね。ボケッとするときってこうなるよな……でも、それにしても変だな? という。「変だと思うけど普通」の人。
ーー坂さんはこの九郎というキャラクターをどう捉えて、どう演じようと考えられましたか。坂 逆に「演じよう」とか「こうしよう」と考えず、ゼロで行くようにしています。ゼロです、ゼロ!
畠中 ははは、自信を持って(笑)。
坂 自信を持ってゼロでお届けしています!(笑) 普段の僕は「キャラクターを格好よく見せたい」とか「どうすればより悪役っぽく見せられるかな」とか考えながら現場に行くのですが、今回はそういうスイッチをあえてオフにしています。でないと、九郎というキャラクターだけでなく作品全体が破綻しちゃうなと感じたので。格好良く見えてもいけないし、極端にだらしなく見えてもいけない。
しかも、彼がこの作品の基準点になるからこそ、あえてやはりゼロ、ニュートラルにそのまましゃべるのが大事なのかなと思っています。逆に、ゼロだからこその謎の不気味さ、底の見えなさもあって。これといった魅力が感じられないからこそのキャラクター性があるのかな、と。
畠中 坂さんの演じる九郎は、僕は最初のテストが衝撃でした! 九郎の声ってどんな声だろう? あの雰囲気、どう表現するんだろう? と思っていたのですが、テストの段階で坂さんの声を聞いて「あんなにボソボソ喋るの!?」って。
坂 (笑)。
畠中 想像を超えていました。
坂 ……怒られてます? もっと声出せって?(笑)
畠中 いやいや(笑)、それが素晴らしかった! あのボソボソがこの作品の空気を一瞬で決めたなって、僕の中では感じました。
ーーその一方で畠中さんが演じられた日比奇跡は、「奇跡」と書いて「ミラクル」。まず名前のインパクトが凄いです。畠中 一瞬、フザけてるのかと思いますよね(笑)。
坂 どういうこと? って。九郎から「こんな名前の奴がいたんですよ」と聞かされたアパートの住人の川戸さんも、爆笑してました(笑)。
畠中 でも彼自身は、自分が「ミラクル」であることを誇りに思っている気がします。確実に、自信たっぷりに「ミラクルだぜ、オレは」って名乗ると思います。
坂 九郎は思いっきりバカにしてましたけどね。
畠中 そういう九郎との因縁というか、扱われ方というか、それが奇跡を突き動かしている気はしますけどね。絶対にこいつには負けたくない、みたいな思いが根底にはあって、でも、やはりどことなく「戦友」的に認めている節もあって。ライバルとも言えないし仲間とも言いきれない微妙な距離感が、二人の関係値としておもしろいなと僕は思っています。
ーー最初の屋上のシーンにも二人の関係、距離感の匂いは漂っていました。畠中 多分、こっち(奇跡)から九郎に対するベクトルはビンビンなんですよ。「どうなんだよ?お前の力、見せてみろや」みたいな感じで絡んでいくんですけれど、九郎が全部避けていく。
坂 それは凄く感じます! お芝居をしている時も、畠中さんが凄い熱気をぶつけてくださるので、「うん、これは受け流そう」と思って(笑)。
畠中 全部横に流される(笑)。
坂 九郎としては「ああ、何か凄くガツガツ来てるなぁ……」って。そういう感覚も楽しいですね、収録していて。
畠中 そう、掛け合いが心地いいですよ。その、避けられている感じも心地よい。避けて、避けて……。
坂 たまに返す。
畠中 そう、しかもそれがちゃんと顔面に入る。こちらもみぞおち狙ってパンチをガンガン打っているのに、全部「はい、はい」って躱されて、たまに顔面にパンチが返って来る。そんなやりとりが面白いなと思っています。しかも、それでも奇跡は自信たっぷりで。みなさんがどう思っているかわかりませんが……僕は正直、奇跡はちょっと “バカ” だなと思っているところもあるので(笑)。
坂 ははは(笑)。
畠中 そこが人間臭くていいなと思っていますね。
(C)花沢健吾・講談社/アンダーニンジャ製作委員会