• 押井守が語った新潟国際アニメーション映画祭への期待と「これから」
  • 押井守が語った新潟国際アニメーション映画祭への期待と「これから」
2023.05.09

押井守が語った新潟国際アニメーション映画祭への期待と「これから」

長編コンペティション部門の審査委員長を務めた押井守監督


――「観客が持って帰るもの」がある、ということですね。

押井 良い言葉を知ってますね(笑)。つまり、長編作品は娯楽性だけでなく同時代性も背負っているし、社会的なメッセージがなければならない。だからこそ面白いと思ったし、そうじゃなかったら審査委員長なんて引き受けないって。
そもそも映画10本と真剣に向き合うって、結構大変なんだよ? だって好き嫌いの話じゃなくて、「何が良かったか」を評価するのは一番難しい行為だから。いくら喋りが得意な私だって、中身が何もないものは語れないし。

――そればそうですよね。

押井 作業としてはかなりヘビーだけど「日本のアニメ10本観てくれ」と言われるよりはマシかな(笑)。まあ、それ以外はボケーっとしているけど。

――あれ? 会期中はそんな感じなんですか。

押井 普段はネット漬けなんだけど、備え付けのパソコンをわざわざ持ってくるわけもなく、ここまでネットを断ったのは初めてかもね。代わりに、めちゃめちゃ本を読んでる。

――ということは、ある意味特別な時間を過ごしているわけですね。

押井 特別だね。窓から海が見える場所でゆっくりとものを考えることができる。こういう時間を持つことが本当に大事なことなんだと改めて思った。

――今回は『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』(2008)も上映作品に入っていましたが。

押井 劇場公開から一度も観たことないんだけどね、私は自分の過去作を観直さないから。商業監督ってそういうものだと思う。でも、自分の作品の中では一番気に入っているので、この作品を選んでくれたのは嬉しかった。
初めて「若い人に観てほしい」と本気で思って作った作品なんだけど、当時観たのはいつもの私のファンだけだったという(笑)。映画を作ることと届けることって、必ずしも一致しないんだよね。

――でも映画は残っていくものですし、評価も時代と共に変わっていきますから。

押井 アニメは残っている方だと思うけど、10年経ったらその8割は消えていると思う。実写作品は9割消えているからね。

――そういう意味では、押井さんの作品はビデオからBlu-rayまでそれぞれソフト化されて、しぶとく生き延びていますよね。

押井 それがなかったらとっくに干上がってるし(笑)、時代を超えて「作品」として遺すことを意識して作ってきた自負はあります。スクリーンにかけてもらえるっていうのは、映画が「生きている」証拠なんですよ。大きいスクリーンと良い音響でみんなで楽しむ、そういう機会が年に1回でもあれば、その作品の血は通っているんだと思う。そういう意味において私の作品はしぶといし、やってきて良かったとは思うね。

――しかし現在は、配信で映画を楽しむスタイルが定着してきています。

押井 配信は確かにいつでもどこでも観られるけれど、基本一人で観るものでしょう? 語る相手がいないのが一番の問題。映画は語られることで初めてその価値が生まれるわけで、観てお終いとなるともはや「消耗品」でしかないわけですよ。
観るという行為は時代に合わせて変わっていくだろうけれど、みんな一緒に映画館で楽しむという古典的なスタイルは決してなくならないと思うし、映画祭の価値もまたそう簡単にはなくならないだろうね。

――では最後に、本映画祭に今後期待することはありますか。

押井 実写の映画祭ではレッドカーペットみたいなお祭りがあるんだから、アニメだったらコスプレイヤーが街を練り歩く、みたいなことができればいいなと思ってる。そういうことは、おそらく地方でしかできないだろうね。
女優は一人しか会えないけれど、アニメキャラならコスプレしたら何十人でも会えるわけじゃない(笑)。将来はゲストにもっと声優さんを呼ぶとか、ホビーやら音楽やら周辺文化もピックアップしていくといいんじゃないかな。

あと海外アニメって結局「アート」扱いなんだけど、もっとヤクザな作品もあるはずなんだよね。実写ではB級・C級~Z級みたいな作品が公開されていて、アニメでも絶対それに当たる作品があるはずだから、そういうものを発掘して上映してほしいな。

押井守(おしい まもる)
映画監督、アニメーション演出家、小説家、脚本家、漫画原作者、劇作家、ゲームクリエイター、東京大学大学院特任教授、東京経済大学客員教授などとして活動 。主な代表作は『うる星やつら 2 ビューティフル・ドリーマー』『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』 『イノセンス』『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』ほか。最新刊『押井守の人生のツボ 2.0』(東京ニュース通信社)発売中。

>>>押井監督を唸らせたコンペティション部門の10作品をチェック!(写真15点)

アニメージュプラス編集部

RECOMMENDEDおすすめの記事

RELATED関連する記事

RANKING

人気記事