• 押井守が語った新潟国際アニメーション映画祭への期待と「これから」
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2023.05.09

押井守が語った新潟国際アニメーション映画祭への期待と「これから」

長編コンペティション部門の審査委員長を務めた押井守監督

3月17日~22日の6日間にわたり開催された「第1回新潟国際アニメーション映画祭」。世界15ヶ国からエントリー、10本の作品が参加するコンペ部門の開催のほか、招待作品による「イベント上映」、近年の観るべき作品を集めた「世界の潮流」、「大友克洋レトロスペクティブ」、オールナイト上映ほか約50本の作品が上映された。
今回長編コンペティションの審査委員長を務めた押井守監督に当地の印象や映画祭の意義、また今後の展望について語ってもらった。

――実際に新潟に訪れてみての印象はいかがでしたか。

押井 新潟という土地は学生時代から何度か来ているし、縁があるんですよ。まず大学時代に佐渡島出身の先輩がいた。しかも3人(笑)。

――それは珍しいですね(笑)。

押井 夏休みになると、東京出身の私は映画館にいるか下宿でゴロゴロしているしかやることがなくて、それを不憫に思ったのか「一緒に来るか?」と誘ってくれて、佐渡島に2週間くらいいてタダ飯を食べさせてもらってたわけ。
後に『機動警察パトレイバー』のアニメと実写両方で新潟港を舞台にしてロケハンにも来たし、あと実写の第1作『紅い眼鏡』を初めて地方で上映したのが新潟だったんです。その時の現地スタッフが「運動」として上映活動に積極的に関わってくれたことが、強く印象に残っている。

――では、今回の映画祭の印象はいかがですか。フラッグなどは飾ってありますが、現地ではそこまで強く映画祭をアピールしている感じはないですね。

押井 映画祭と言っても、街自体がそれ一色になることはまずないんですよ。カンヌ(国際映画祭)みたいなのは別物で、どこの映画祭も基本こんなものです。そもそも映画を観るっていう行為そのものが地味だし(笑)、アピールするのも難しいわけで。
ゲストにしたって、アニメだとどうしても地味になる。スタッフがボソボソ喋るしかないわけで、派手にしようがないでしょう。

――富野由悠季監督くらいキャラが立ってないと難しいですよね(笑)。

押井 あの人はまた特別なんだけど(笑)、まあ私みたいに監督がとにかく喋りまくるしかないんだろうね。それよりも映画祭で何より大事なのは、「どんな作品が集められるか」。

――確かに。作品そのもので衆目を集めると同時に映画祭の格式を上げていくものになりますから。

押井 回顧上映とかも必要だけど、特に大事なのは新作。「ここで一足早く観られる」というスニークプレビューみたいな仕掛けも必要だし、今後続けていくことを考えていくならば、常に良い作品を集めていく必要があるわけで。

――その意味で、今回のコンペティション部門に選ばれた10作品の印象はいかがでしたか?

押井 初回にしては思った以上に良い作品が揃ったと思うし、そこはとても嬉しかった。こういう機会じゃないと観られない作品――世界中のアニメが一堂に会することでその多様性を感じられる仕掛けになっているし、日本のアニメーションがいかに特殊かということも気づかせてくれるわけだけどね。

――ああ、日本の作品はセルルックの作品がメインだからですか。

押井 そう。だってデジタルをツールにしても3Dソフトを使っても、結局はセルの2Dアニメに寄せちゃうわけだから。日本人ってつくづく二次元が好きな民族なんだなって(笑)。

一方で、この10本ではいろんな素材を使っているので、とにかく「動いていればアニメーション」という本来の意味が実感できるはず。啓蒙しよう、とまでの気分ではないけれども、この10本を観ることで「目から鱗」の体験ができると思うんですよ。
しかも、今回は長編アニメ作品縛りなわけだよ。これはもう画期的。
▲コンペティションでグランプリを獲得した『めくらやなぎと眠る女』(ピエール・フォルデス監督)

――この手の海外アニメーション作品は、短編~中編という印象がありますからね。

押井 聞いたことないでしょう? 長編作品はまず制作費がかかるし、資金回収をしなければいけない。あと野心的なアート系作品との大きな違いは、観客を絶対満足させないといけないということなんだよ。

アニメージュプラス編集部

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