• 【ガンダム】安彦良和が『ククルス・ドアンの島』を語る新著で得た幸福感
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2023.04.22

【ガンダム】安彦良和が『ククルス・ドアンの島』を語る新著で得た幸福感

『ククルス・ドアンの島』完成までの歩みを追った新著を語る安彦良和さん


――今回の作品に参加されたスタッフの皆さんは安彦さん、しかもファーストガンダムの仕事というのが大きなモチベーションになったと思うのですが。

安彦 美術監督の金子雄司さんは前の現場が押して作業が大変そうだったから、僕としては無理のないように配慮していたつもりだったんですよ。そしたら、作業が終わった後に、実は彼がすごいガンダムファンだって分かってね。だったら、もうちょっとやってもらえばよかった(笑)。

石井 逆にイムさんは、あまり安彦さんのお仕事を知らなかったようですが、かえってフラットな姿勢で作品に関わることができたのではないか、と。

安彦 そうだね、実にフランクなお付き合いができた。この本にも書いてあるけど、今回の彼女の「副監督」というクレジット、俺の時代なら彼女の仕事は「演出」だし、そういう肩書は聞いたことがなかったから「それで良いのか?」って何度も確認したんですよ。今回の仕事が彼女のキャリアアップにならないと意味がないからね。

――スタッフの皆さんの発言を読んで、いかがでしたか。

安彦 実際の気持ちはわかりませんけれど、少なくともこう言っていただけるくらいには信頼を戴けていたのかな、と。ありがたい話です。

石井 僕の印象では、今回の経験を踏まえてもう一度安彦さんとお仕事をしたい、という思いを皆さんから感じられました。

安彦 そう思ってもらえたのなら、本当に嬉しいですよ。

――『ククルス・ドアンの島』の現場は、これまでのものとは違った印象ですか。

安彦 ですね。現役の時は本当に辛いことばかりだったけど、久々に現場へ戻った『THE ORIGIN』の時はハッピーに終われたんです。今回の現場は、それ以上に優しい印象でした。

――『ククルス・ドアンの島』という題材でガンダムの新作を作る、という行為は、ある意味現在のガンダムを巡る様々な状況に一石を投じる機会となったと思うのですが、その辺りはどう思われますか。

安彦 自分の中では意外性はなくて、生意気な言い方をすると「その切り口を面白がってもらえる」という読みがありました。だから(制作させてほしいという)直訴をしたんですが、「『ククルス・ドアン』はこうでなくてはいけない」というスタッフの熱意が返って来たのにはビックリしました。ドアンのザクは異形でなくてはならないとか、石を投げないといけないとか……「そんなにこだわっているなら、どうぞどうぞ」と。

石井 ネタとして語られることは多い反面、どこか心に残るエピソードであったことは、間違いないと思うんです。

安彦 ネットを見ていて、そこは理解していた。たまたま検索していて「作画崩壊」っていうキーワードが出たのでクリックしたら「ドアン」って出るんだよなぁ(一同笑)。あと「島編」なんて言葉も知らなかった。

石井 テレビアニメのシリーズ中で描かれる箸休め的なエピソードのことですね(笑)。

安彦 「そんなに有名だったのか、ならやってやろうじゃないか」と、こっちの気持ちにも火が点いた感じだね。

――公開当時、本作で安彦さんの中の『機動戦士ガンダム』は一区切りがついた、というお話をされていましたが、現在のお気持ちはいかがですか。

安彦 本来やるはずだった「一年戦争編」の代案ではあったけれど、この作品を作って満足したというのは本心ですね。先日『THE ORIGIN』のOVAを観直す機会がありまして、久々に観ると我ながら「よくできているな」と(笑)。
あんまり周りが褒めてくれないけど、本来なかった過去編をここまで上手くまとめられたということで自信も持てましたし、そういう意味ではファーストに関しては、これ以上何かやったら罰が当たるんじゃないかって思います。

――当時、ファーストガンダムがここまでのポテンシャルを持っている作品だという意識はありましたか?

安彦 当時はそんなことを考える余裕もなかったし、目の前の破綻しているところばかりが気になったけれど、『THE ORIGIN』の仕事を通して、やっぱり元のTVシリーズはとても良い構造を持っている作品だということがしみじみ分かった。富野(由悠季)さんの仕事は本当に素晴らしかったし、きわめて稀有な作品じゃないでしょうか。

――今後もアニメと関わっていこうという思いはありますか。

安彦 (アムロ・レイ役の)古谷(徹)さんは、アフレコ時に「これで終わりですね」と別れたのに、完成披露試写の挨拶では「またやりたい」って言ってくれてね……そりゃ泣けちゃいますよ。そんな風に皆さんから「またやりたい」という言葉を聞いていると……正直、その気になっちゃうんですよね(笑)。

――嬉しいお言葉です、ありがとうございます!

安彦 心や身体が弱って描けなくなったら「もうないな」と思うんですけれど、意外にまだ元気なものですから、はい、また何か機会があれば……と答えておきましょうかね(笑)。

やすひこ・よしかず(右)
1947年、北海道出身。70年に虫プロに入社、73年からフリーに。『宇宙戦艦ヤマト』(74年)、『勇者ライディーン』(75~76年)、『超電磁ロボ コン・バトラーV』(76~77年)などの作品に関わったのち、『機動戦士ガンダム』(79~80年)でキャラクターデザイン・作画監督を務め、一大ブームを巻き起こす。
89年に専業漫画家に転進、『ナムジ 大國主』『虹色のトロツキー』『王道の狗』などの歴史物を発表。2001年から11年まで執筆した『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』のOVA全6章(15~18年)で総監督を務め、25年ぶりにアニメの現場に復帰。続いて劇場アニメ『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』(22年)の監督を務めた。
現在、「月刊アフタヌーン」にて『乾と巽 -ザバイカル戦記-』を連載中。

いしい・まこと(左)
1971年生まれ。茨城県出身。アニメ、映画、特撮、ホビー、ミリタリーなどのジャンルで活動中のフリーライター・編集者。「安彦良和 マイ・バック・ページズ」に続き、「安彦良和 マイ・バック・ページズ 『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』編」の構成・執筆を担当。

>>>安彦良和がファーストガンダムの世界に帰還!『 ククルス・ドアンの島』場面カットを見る(写真8点)

(C)創通・サンライズ

アニメージュプラス編集部

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