イベント終了後、三池さんにお話を伺った。
――本日はお疲れ様でした。このようなワークショップはこれまでも開催されているのでしょうか。三池 はい。一般のお客さまに特撮のワークショップを開催したのは、10年前の『館長 庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技』が最初です。とはいえ、東京でやった時は講演が主体でした。
初心者ばかりで本格的な特撮の現場を体験してもらうことは難しいんですよ。『特撮博物館』が地方巡回することになった時、愛媛で「一般の方にも特撮を体験することができませんか」と相談を受け、2日間で朝から晩までかけてミニチュアセットを作ってもらいました。建物を作るのは2日あっても無理なので、ジオラマの立ち木をひとり1本作ることにしたのですが、それでも1日で終わらなかったという(笑)。
そこで熊本では手を変えて綿雲の特撮を体験してもらったら、これは短い時間内で、しかも幅広い年齢層で楽しめることがわかりました。それ以降のワークショップでは、この綿雲のセットを採用しています。
――CGなどのデジタル処理が主流となっている中、アナログな手法を扱うワークショップを開く意味は?三池 『特撮博物館』をきっかけにして、ATAC(アニメ特撮アーカイブ機構)という組織が発足しました。1960年代生まれの人たちが中心となって、自分たちを楽しませてくれたアニメと特撮を日本文化として残していくために活動していて、自分も所属しています。現在は作品の途中生産物である台本や絵コンテ、特撮ではミニチュア造形物などの保存がメインになっていますが、それだけでは技術の伝承は難しいので、ワークショップを開こうということになったんです。
――手作業で特撮を生み出す醍醐味は、どんなところにあるでしょうか。三池 臨場感、実在感は勿論のこと、立体感や遠近感を味わえることでしょうか。CGはモニターの中では立体かもしれないですけれど、あくまでバーチャル世界のもの。目の前にあって触れるということは、大きいと思います。
――このワークショップを通して、参加者にどんなことを伝えたいと考えていますか。三池 CGが発展した今、ミニチュア特撮の出番は極めて少ない、というのが現実です。産業として、ミニチュア特撮が昔のように盛り返すことはないでしょう。
でも、一度それを失ってしまえば、それを元どおり再生させることは困難です。趣味の範囲で構わないし、自主映画でもどんどんやってほしい。どこかで今残されている技術の伝承だけはしていきたい、それが私の「願い」です。
数多くの技術者・職人によって生み出され、受け継がれてきたミニチュア特撮の技術。ワークショップを通してその遺産が受け継がれ、新たな特撮の芽が育っていくことを願うばかりだ。
▲自身のインタビュー本『三池敏夫の特撮秘聞録』を手にした三池さん。
>>>綿が雲に!ライトが太陽に!三池敏夫さんが手がける特撮ワークショップの様子を見る(写真13点)