• 『天気の子』リアルとファンタジーが同居する新海誠の「おとぎ話」
  • 『天気の子』リアルとファンタジーが同居する新海誠の「おとぎ話」
2022.11.05

『天気の子』リアルとファンタジーが同居する新海誠の「おとぎ話」

(C)2019「天気の子」製作委員会


その語り口は〈おとぎ話〉

クライマックスを除けば、全編を通じて非現実的な映像はほぼ見られない。
ヒロイン・陽菜の “不思議な力” が物語を牽引するが、その “力” の正体ははっきりとは説明されないまま、主人公・帆高と陽菜を翻弄する。
現実と非現実、超自然的現象とリアルな日常、不思議な出来事の中で揺れる等身大の少年・少女の感情、そうした相反する空気感の共存――リアルとファンタジーの独特の距離感が、『天気の子』の特徴のひとつだ。

『天気の子』公開時のインタビューで、新海監督は自身の想像力の源泉について次のように語っている。

「自分の水源がどこにあるのかと考えて、ある時期から自覚的になったのは、『自分の足元じゃないか』ということです。自分の生まれて育ってきた場所に対する感覚、もっと言えば日本的なもの……といっても『国家制度』としての日本ではなくて、もう少し風土のようなもの……たとえば伝承のようなもの、日本昔話のようなもの。日本昔話のような物語って、なんとなく実感としてしっくりくるんですよ。

『おむすびころりん』という話がありますよね。おにぎりが転がって穴に落ちちゃって、その穴の中にまだ知らないネズミの国がある。そんな世界が、西洋的なドワーフやトロールがいるような世界、剣と魔法の世界よりも、僕には体感として何だかわかるんですよ。地下のネズミの国だったらあるような気がする。おにぎりがそこに導いてくれそうな気がする。あるいは、鳥居をくぐれば何かがありそうな気がする。今はそんな、自分が実感としてわかるその世界で物語を描きたいという気持ちがあるし、ある時点からはっきり、物語を汲み取ってくる場所もそういうところに求めるようになりましたね」(アニメージュ2019年9月号掲載のインタビューより)

その言葉をふまえて『君の名は。』や『天気の子』を観ると、その語り口はたしかにどこかで「昔話」「おとぎ話」のようでもある。
不思議な出来事は確かにそこにあるが、そこにSF的な説明が加えられることはない。
ただ、緻密な描写によって “不思議” にリアリティを与え、その “不思議” があるからこそ語れる物語と人の感情のドラマが紡がれる。
それが、新海誠が『天気の子』で見せてくれた映画の魅力だったのではないだろうか。
葛藤を経て大きな選択をする帆高と陽菜。やがて世界は決定的に変容し、変わってしまった世界でそれでも人は生き続ける……。
ラストシーンの帆高と陽菜を目の当たりにした観客の心にわき上がる複雑で濃厚な感情は、確かに新海誠作品でしか味わえないものだ。

最新作『すずめの戸締まり』では、その向こうから災いが訪れる “扉” が物語の鍵を握っている。
主人公・すずめは、扉を閉めて鍵を閉める 「閉じ師」として旅を続ける青年・草太と出会い、やがて自らも戸締まりの旅に出ることになるという。
日常と地続きの不思議な現実と、そこに直面してしまった人の葛藤と変容のドラマ。
『君の名は。』『天気の子』と続いた新海誠の “おとぎ話” はきっと、『すずめの戸締まり』でより深められると期待される。
その意味では、今回の地上波放送で『天気の子』の魅力を再確認することで、『すずめの戸締まり』をさらに楽しく観ることもできるのではないだろうか。

(C)2019「天気の子」製作委員会

アニメージュプラス編集部

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