現在公開中のスタジオコロリド長編第3弾『雨を告げる漂流団地』。ずっと真夜中でいいのに。が手がけた挿入歌「夏枯れ」のPVがYouTubeで150万再生を超えて人気を博している。楽曲とともに描かれる映像は、子供たちのひと夏の忘れられない思い出、不思議な体験が、儚くノスタルジックに表現されている。
映画公開を記念して、現在発売中の「スタジオコロリド公式ファンブック『雨を告げる漂流団地』」(エムディエヌコーポレーション)に収録された、PV制作担当・ハイパーボール(山下敏幸&三皷梨菜)のインタビューを特別掲載。アップテンポのメロディとは裏腹に描かれる切なさが感じられる歌詞、そしてどこか郷愁を誘う映像によって紡ぎ出されたPV制作の舞台裏とは?――ハイパーボールはこれまで数多くのアニメ作品のOP映像やED映像、PVを作ってきました。普段はどのようなことを心がけて制作されているのですか。
山下 僕がOP映像の制作を担当、三皷がED映像を担当することが多いです。OP映像はキャラクターや世界感を紹介する、いわば作品の「顔」にする必要があります。そこへ作品に合ったテイストを盛り込んで、ファンに喜んでもらえるように仕上げます。ED映像は本編を観終えたあとに余韻を楽しめるようにするといったところでしょうか。
――映像と楽曲との組み合わせがあります。山下 楽曲は僕たちにとってのシナリオのようなものです。『雨を告げる漂流団地』のPVもそうですが、楽曲で描かれる心情を映ではどう表現するか、どう演出するかを検討し、映像を観た視聴者が感情を増幅してくれたらいいなと思っています。
三皷 EDの楽曲は作中のキャラクターに焦点を当てて歌詞が作られていることが多いです。映像はそのキャラクターの視点に立ちつつ、自由に制作させてもらえることが多いですね。
――PVの制作についてはいかがでしょうか。山下 PVは制作段階で5話分の映像を使えることもあれば、完成しているわずかなカットだけで作ることもあります。とはいえプロモーション、つまり作品を宣伝するための映像を作るため、限られた素材で端的に魅力を表現することを考えています。
三皷 発注元のオーダーを取り入れつつ、誰が観てもどんな作品なのかが簡潔にわかるようにしたいと思っています。
――今回どのような経緯でPVを制作することになったのですか。三皷 ツインエンジンさんの齋藤響プロデューサーが弊社に直接問い合わせしてくださったんです。齋藤さんが『漂流団地』のPVを作るに当たり周りに相談したところ、弊社を薦められたと聞いています。
――本作の第一印象は?三皷 コロリドさんらしい作品だと思いました。子供が物語の中心にいるところや、キャラクターデザイン、絵のタッチからそう感じました。
山下 いただいた企画書を見ると、子供たちが夏休みの間に少しだけ大人の階段を上るというか、人間としてたくましくなって、他人のことを思いやれるようになる物語だと書かれていて。そこもまたコロリドさんらしいなと。
――PV制作にあたり、絵コンテを映像にしたコンテ撮や、途中までできあがっていた映像をご覧になったそうですが、それらについてはどんな印象を持ちましたか。三皷 とても丁寧に作られていると感じました。リアクションやキャラクターの動きが本当に細かいところまで観察されていてキャラクターに魂が宿っているようでした。原画も美しかったです。
山下 原画と、その線を清書した線画を使った映像も観せていただきました。それぞれが丁寧に描かれていたので、PVには原画や線画を生かしたいと考えたんです。じつはPVの制作後にMVも作ることになっていて、そちらでは完成した本編の映像を使うことができるはず。それならPVでは未完成の状態をきれいに見せたり、映像が完成する過程を描いたりすることで、作品への期待感を高めたいしたいと考えたんです。
三皷 ほかにもキャラクター設定や美術ボード、石田監督が描かれたイメージボードなどもいただきました。イメージボードは水彩画タッチで描かれていて、その雰囲気も出したいなと。
――ずっと真夜中でいいのに。の「夏枯れ」を最初に聴いた時の感想は?三皷 実は私たちは「夏枯れ」を、この曲が使用される太志たちが海に飛び込むシーンや、団地の屋上で花火をするシーンの映像を拝見するタイミングで、初めて聴いたんです。映像全体が楽しかった夏の思い出を振り返るようなイメージでぴったりだなと感じました。
山下 曲の出だしやギターのリフも夏休みの懐かしさを感じますね。ずっと真夜中でいいのに。さんもこの映像を見ながら楽曲を作っていると思います。PVで楽曲の印象を増幅させるため、楽曲にもっともマッチしているこのシーンをPVに入れることは、すぐに決まりました。
――今回のPV制作で山下さんと三皷さんはどのように役割分担しましたか。山下 僕が映像全体の構成と、どこにどんな効果を入れたいのかといった指示を作成しました。画像の加工や線画タッチの調整については三皷にやってもらい、できあがったものを僕が組んでいきました。
三皷 私は山下から「線画から線だけ抽出してちょっと色を塗ってみて」とか「原画のこの部分を水彩タッチにしてみて」というように指示をもらって、作業したものを山下に見せます。そしてOKが出たら作業を進めるという感じで制作していきました。
(C)コロリド・ツインエンジンパートナーズ