• 『特撮のDNA』精密ミニチュアが生んだ平成ガメラ3部作のリアリズム
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2022.08.10

『特撮のDNA』精密ミニチュアが生んだ平成ガメラ3部作のリアリズム

『ガメラ 大怪獣空中決戦』でギャオスが巣作りをした東京タワーのミニチュアも展示 (C)KADOKAWA NH/1995


――同じく三池さんが特殊美術を手がけられた『ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS』(2003)ではゴジラの吐く放射熱線で東京タワーが壊れる場面があります。こちらのモデルも新たに造ったものですか。

三池 はい。これは浅田英一さんが特技監督ですが、東京タワーを壊す場面が3、4カット連続するんですよ。それはA・B・Cの3カメで同時に狙えるセッティングではなくて、1カット目はスタジオの中で望遠気味に撮って、2カット目はアオリを夜のオープンで、3カット目は倒れるところをロングショットでという内容です。
この場合も何度も倒壊することになるので、『大怪獣空中決戦』同様に頑丈な金属製のものを光製作所とマーブリングファインアーツに制作を依頼しました。しかも同じ図面で(笑)。ただBSデジタルの円筒形の設備を追加したり、第一展望台の色を塗り替えるなど、時代を経ての変遷は反映しています。

――東京タワーはある意味特撮作品の花形のような存在ですが、今の時代ではそのような要望を出しても、実際の建物の所有者が首を縦に振らないケースもあると思います。

三池 怪獣映画ではとにかく建物を壊すことが伝統で、僕らはそれを「破壊のカタルシス」という見せ場にしてきたわけです。しかし実際に制作となると断られたり、あとから「困ります」というクレームが付いたりするわけですね。どうしてもそのビルを出したい場合は、名前をちょっと変えたりしますね。
『ガメラ2 レギオン襲来』(1996)のすすきののセットは、ロビンソン百貨店札幌(当時)のビルの形状そのままで「バンデラス」という名前にしました。あと、『ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒』(1999)の渋谷セットの丸井も、似ているけれど少し違う看板にしました。

――フジテレビに断られた作品もあったそうですね。

三池 ええ、『ゴジラ×メガギラス G消滅作戦』(2000)。それに関しては僕も図面を担当したので記憶も鮮明です。当初OKという話で進んでいて、図面や絵コンテもできて、ミニチュアの制作にこれから着手というタイミングでダメってことになっちゃった。どうやら上層部でストップがかかったらしくて、しかたなく真ん中の球体をひし形みたいにしたそれっぽいモデルを作って壊しました。あれも突然の変更で結構大事件でしたね。

――逆に、とても協力的だったという場所はありますか。

三池 『大怪獣空中決戦』の福岡ドーム(現・福岡PayPayドーム)は大変協力的でした。だからこその、あの台本の内容ですからね。本物の自衛隊車両が球場の中に肉を運ぶ場面を撮影できたことがすごいと思いましたし、ミニチュアの外観を壊すことも許してくれて、寛大ですよね。

あとは『邪神〈イリス〉覚醒』のJR西日本・京都駅。当時駅ビルが出来たばかりだったんですけれど、ミニチュア破壊は勿論のこと、金子修介監督による俳優さんの撮影で階段に瓦礫を積んだり、施設内での雨降らしも許してもらえたので、本当にありがたかったです。

――現在の特撮はCGが中心となり、ミニチュアによる特撮がどんどん減っている傾向がありますが、三池さんの立場からこの状況はどのように感じられますか。

三池 作品や監督の方針によりけりだとは思いますが、今はミニチュア特撮よりもCGのほうが安く仕上がるし、技術の進歩も圧倒的です。
でも、現場での絵作りの緊張感がどんどん薄れてきた印象がありますね。最終的にVFXでどうにでも変えられるとなると、現場を支える美術部にとって、やりがいの喪失感を覚える部分はあると思います。

――最後に、今回の「特撮のDNA展」に来るお客さんにどんなところを観てほしいと思われていますか。

三池 キャラクターが主役なのは間違いないですが、怪獣とミニチュアセットを一緒に撮影したことで臨場感あふれる特撮が成立していた、ということを展示で感じていただけると嬉しいですね。CGだけの作品だと、何か展示しようにもモニターを置くしかありませんから(笑)。

日本特撮の伝統である精緻なミニチュアがCGに向かってしまう今、特撮美術の価値を理解し、具現化する特技監督が現れてほしいですね。

>>>「特撮のDNA」展で初公開となる平成ガメラシリーズの展示物を見る(写真7点)

(C)KADOKAWA NH/1995 (C)KADOKAWA NHFN/1996 (C)KADOKAWA TNHN/1999 (C)特撮のDNA製作委員会

アニメージュプラス編集部

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