――作品のメイン舞台となる無人島の美術に関しては、どのようなイメージで作業されましたか?金子 安彦さんの絵の背景はかなり独特で、一見モヤっとしているんですが、キャラクターが入るとピシっと締まるんですね。そもそもの線の完成度が高いんですよね。
例えば、キャラクターの後ろにアルファベットの「M」みたいに描いている線が、それだけで岩の影に見えるし、「W」のような線が草に見える――そういう独特の背景の描き方や画集で描かれているイラストを研究しながら取り組みました。
――今回の美術は手描きにこだわっているとのことですが、子供たちが生活する灯台まわりなども、そのアナログタッチが良い雰囲気を作っていましたね。金子 手描きだと自然に懐かしい感じになりますね。あれをもっと突き詰めていくとスタジオジブリ的な背景にもなったりするんですが、紙とか筆の質感がわかりやすく残っていてもいいのかな、というラフな感じでやっています。
あと「布海苔(ふのり)イメージ背景」、サンライズスタジオでは「寒天イメ背」と呼ばれているものをイムさんが「やりたい」と希望されまして。
――『機動戦士ガンダム』で衝撃的なシーンになると背景が無くなって、変わった色味になる演出ですね。金子 手法としては、布海苔という海草を乾燥させたものにエアブラシを吹いて色を乗せて表現する簡易な背景処理で、昔カット数をこなすために使っていたんです。そういうある種手抜きな処理を現代の映画でやっていいのか本当に悩みましたが、今回、1場面だけやっています。頑張って布海苔を入手して作成して、さらに撮影処理でユラユラする効果を入れて撮影してもらいました。
――そういう部分も含めて、いかに当時のガンダムのイメージを現在の背景美術に落とし込むかということに金子さんが腐心されたことが理解できました。金子 やっぱり本編の見どころはセル作画のように動く3DのMSと現代の作画で蘇ったアムロたちであって、美術はそれをできるだけ邪魔せずに盛り上げようという姿勢です。トータルバランスとして「どうだ、背景が凄いだろう」という類の作品ではなく、全体的にまとまりのいい形になっていますよね。そういう意味では、本当に美術らしい仕事をできたと思います。
>>>スタッフこだわりの美術をチェック! 『ククルス・ドアンの島』名場面を見る(写真10点)(C)創通・サンライズ