現在劇場公開中の『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』は、ガンダムシリーズの原点であるテレビアニメ『機動戦士ガンダム』、そのシリーズ中でも異彩を放つ第15話『ククルス・ドアンの島』を完全映画化。TVアニメ『機動戦士ガンダム』のキャラクターデザイン、アニメーションディレクターであり、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』を手掛けた安彦良和さんが監督を務めたことも、大きな話題を呼んでいる。イム ガヒ副監督に続くスタッフインタビュー企画第2弾は、美術監督を務めた金子雄司さん。後編となる今回は具体的にどういうイメージを持って現場に臨んだか、また作業中の苦労などについてお話を伺った(全2回)。――本作の実際の作業に入ってみて、いかがでしたか。金子 やはりファンも多い作品ですから、「本当にこれでいいのかな?」と要所要所で悩みつつも精一杯やった、という感じですね。というのも、『機動戦士ガンダム』には意外と「これが代表」と言えるような背景が無いんですよね。象徴的な背景があればそのイメージに頼ることができるんですが、そちらに頼ることはできませんでした。
また『機動戦士ガンダム』の背景はすごく好きなんですが、やはり当時は「子供向けロボットアニメ」としての色付けなので、結構な頻度で極彩色――ピンクや黄緑を使ったりしていて、今のリアリティラインと比べるとかなり可愛らしい感じなんです。最近のガンダム作品だといわゆるイージス艦の艦橋のような色合いになっているのですが、いろいろと悩んだ末に、ホワイトベースのブリッジの内部は当時と同じ色合いに落とし込みました。とにかく塗り色を当時の印象にしたかったので、徹底的にこだわらせてもらいました。
――やや緑がかった色彩イメージですよね。
金子 そうです。また、モニターなどの色味も当時はかなりカラフルで、それがホワイトベースのブリッジ内の印象にも繋がっているんです。ただ、特殊な形のメーターやモニターは、モニターワークにも関わる案件になりますので、スタッフの方に「当時の印象で動いているように調整できないか」と相談させていただきましたね。
具体的にはこちらから色味のグラデーションを紙に描いてお願いして、それを基にしてモニターワークの方に特殊なメーターがカタカタと動くように仕上げていただきました。
――見た目や色味で当時の雰囲気を思い出させつつも、ディテールは今風を目指した。金子 ホワイトベースのブリッジは、当時窓側と奥側で色が違っているんですよ。そういうところも注意して作業を進めました。あと内部設定が細かく描かれているものですから、どのような形状や素材で成形されているかといったわからない部分は、作業を進めながらメカデザインを担当された山根公利さんさんにチェックしていただきました。
当時の映像を寸分なく再現するとなるとキリがないし、正確さを突き詰め過ぎるとまるでこちらが観客を信用していない姿勢になるのも嫌なので、うろ覚えのまま本作を観る方の記憶にシンクロできる色味を探っていきました。ここで、今までノスタルジー要素のある作品に参加した経験が活きた感じがしますね。
――厳密な再現ではなく、懐かしい空気を出していきたかったということですね。金子 そうですね。あとガンプラみたいなところから入ったファンもいると思うので、それこそ当時の様々なイメージ要素をゴチャ混ぜにして背景の空気感に取り入れています。例えば、島の地下にあるドアンのザクやガンダムが隠されているところは、バンダイのプラモデルTVCMっぽい色味に寄せていますし、僕が子供の頃に買っていたガンダムの食玩のパッケージに赤いステンシルが入っていたのが印象的で、そういうイメージも取り込んでいます。美術監督補佐の末広(由一)さんとも仕上がりイメージを確認しあって、それこそサザンクロス隊の高機動型ザクは「MSV」シリーズの感じを入れたりしました。
(C)創通・サンライズ