• 元アニメ制作が映画『ハケンアニメ!』を観て感じたリアリティ
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2022.05.06

元アニメ制作が映画『ハケンアニメ!』を観て感じたリアリティ

(C)2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会


●連絡が取れない、原画マンが捕まらない、スケジュールがない……ないないだらけの制作現場
本作で、天才監督の王子千晴(演:中村倫也)に振り回されるプロデューサーの有科香屋子(演:尾野真千子)は、クリエイターと連絡が取れない、やってくれる原画マンが見つからない、しかもスケジュールがない……といったことに悩まされる。これも映画を面白く見せるための誇張なんかではなく、実際のアニメ制作現場での悩みと一致する。

近年、テレビだけでなく、劇場でも配信サービスでもたくさんのアニメが公開されていることはご存知だと思うが、作品の数だけその裏側にスタッフは存在する。そのため、作品を掛け持ちするスタッフも多く、多忙を極める彼らと連絡がつかないことや、手いっぱいで仕事を受けてもらえないことはザラにある。

本作に登場する作画スタジオ『ファインガーデン』でも、瞳が監督を務める『サウンドバック 奏の石』と、王子が監督を務める『運命戦線リデルライト』の少なくとも2作品の原画を受注している。ピンチに陥った香屋子が『ファインガーデン』のアニメーターたちにどんな行動を起こすのか注目してみてほしい。

●使用されているアニメ映像のリアルさ
視聴者の方に届くアニメは、当然だが完成して色がついている状態になっている。そのため、線撮と呼ばれる色がついていない状態の映像を見る機会はあまりないと思うが、本作ではその制作過程の線撮もしっかり見ることができる。

アフレコの際の監督・瞳とアイドル声優・群野葵(演:高野麻里佳)のやりとりも本作の見どころのひとつだが、そのとき使用されている映像にも色がついていない。実際のアフレコ現場でもよく見る光景だ。その映像に声優がどのように声を当てているのか見るのも面白いだろう。

また、これは王子の演出であるが、『運命戦線リデルライト』ではあえて色をつけず、鉛筆書きの原画でフィニッシュしているカットがある。アニメーターの鉛筆のタッチが活かされたそのカットは、普段線撮を見ることのない視聴者の目には新鮮に映ることだろう。こだわりが感じられる劇中アニメの映像は必見だ。


>>>劇中アニメ『サウンドバック 奏の石』『運命戦線リデルライト』の場面カットを見る(写真20点)

私がアニメ会社で働いていたころ、中学生の女の子からアニメ業界の話を聞かせてほしいと言われたことがあった。アニメの市場規模が拡大していくにつれて、監督や声優への注目が高まり、メディアへの露出も多くなった。しかし、いまだにアニメ制作現場の様子は謎に包まれているところが多い。

映画『ハケンアニメ!』は、そんなアニメの制作現場をとことんリアルに描いている。きっと映画を観る人を、普段見ることができない画面の向こう側へ連れて行ってくれるだろう。

(C)2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

寺林 沙樹

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