賀東 「ありがとう」っていう意味の「ダーシュ・ザンナ」だと、「ダーシュ」が「thank」、「ザンナ」が「you」なので、「Thank you」って言っているだけなんです。「ネーヴェ・シーア」も「ネーヴェ」が「夜」で「シーア」が「穏やか」で、形容詞はひっくり返るっていう法則を決めておいたので「Good night」が「Night good」になっているという。そういうのをメモっておいて、こないだ数えてみたらもう300語から400語くらいいってますね。350語くらいかな。せいぜいそれくらい。本格的にやっている作家さんだったら1000語超えてるんじゃないでしょうか。
ーーその単語帳がほしいですね(笑)。賀東 そうですね。でもそれをやるとバレちゃう、たいして考えてないじゃんって。世の中には架空の言語マニアっていう方もいらっしゃるので。トールキンのエルフ語とか。そういう人が僕みたいにいい加減に作ってるのを見ると、多分怒っちゃうんじゃないですかね(笑)。でもそうやって単語を積み重ねて決めていくと、後で会話を作らなきゃいけないときにだんだん楽になっていくんですよ。文法に従って書いていくだけでいいので。
一人称の「I」を「ノイ」っていう言葉にしているんですが、いろいろな会話で頭に「ノイ」って出てくるので、そうするとすごくリアリティが出てくるんですよ。よく出てくるから、見ている人もだんだんその意味に気付くようになってくる。デタラメにやるよりは、ある程度法則をつけたほうが、「らしく」聴こえるんですよね。特にアニメだと口に出すので。それはある程度決めておいてよかったなって思いますね。
ーー「P」の発音が「B」になったりもしますね。「ポリス」を「ボリス」、「パスタ」を「バスタ」と言ったり。賀東 アラビア語がそうらしいですね。適当に決めたんですが、どこかでそういう言葉があるって聞いたことがあったのかなという気もします。
▲#6 NEED FOR SPEED
ーーティラナが濁音で発音して訛っているっていうのもリアリティがあります。賀東 ただ、最初から気にしていたのは、たとえば「ペットボトル」を「ベットボトル」と言わせるのかどうか。それから、日本語のぱ行の語、「やっぱり」とかをどうするのか。それは最初の頃に相談して、日本語のぱ行はもうアリでいきましょうっていうことになっていたと思います。あまりやり過ぎてしまうと、今度は視聴者が混乱してわからなくなってしまうかもしれないんですよね。小説だったら何も考えないんですけど、アニメになるとそこが悩ましい。
ーー実際に喋らせてみて初めて気がつく問題なんですね。賀東 「吹き替え時空」とでもいいますか、吹き替えの世界だからこれでいいんだっていうのはよく自分に言い聞かせています。独特ですよ、吹き替えの世界って。田舎のおじさんがみんなすごい美声だったり、太ったおばさんなのにすごくセクシーな声だったり。あの独特の世界って不思議だなっていつも思っています。
ーーたまに女性の語尾なども話題になりますよね。「だわ」とか「わよ」なんて今時言わないっていう。賀東 ありますね。難しいですよね、吹き替えの日本語は独特なので。一人称だって「俺」なのか「僕」なのか本当はわからないじゃないですか。黒人のいかつい兄ちゃんだと「俺」だろうけど、トム・ホランドだったら「僕」、みたいに勝手に決めてるだけですよね。でももしかしたらトム・ホランドの気持ち的には「オイラ」かもしれないし、やっぱり年相応に「俺」って言ってるかもしれないし。『アイアンマン』だったらトニー・スタークはやっぱり「私」なのかなとか。
ーー原作巻末のボーナストラックに登場するイリーナさんも、アニメ版でもどこかで出番があるかなと思っていたんですが。(編注:イリーナさんとは、『コップクラフト』の連続ドラマシリーズ(架空)でティラナを演じているという設定の女優イリーナ・フュージィ(架空)のこと)賀東 最後の5分間だけ付けるのはどうかって言ったら、板垣さんが即「イヤだ」って(笑)。本編のほうに集中したかったっていう感じですね。6巻のあとがきでも書いたんですが、作者とキャラの対談なんて痛いのは重々承知なんですけれど、1冊書き終えると本当にくたびれていて、4ページ書くのもつらいんですよ、本当に。
ーークールダウン的な意味合いもあるんですね。賀東 自分のキャラと話してるのを客観的に見ると恥ずかしいんですけど、イリーナさん人気なんですよね。
ーー僕も大好きです! さて、アニメもこのあと佳境に入っていきます。最後に視聴者の方にメッセージをお願いします。賀東 僕も手に汗握って見ていますので、ぜひ最後まで楽しんでください。あと、スタッフの皆さんを応援してあげてください。
ーーありがとうございました!※こちらのジャック・ホータカ(CV:津田健次郎)、イリーナ・フュージィ(CV:吉岡茉祐)が出演するドラマCDがBlu-ray&DVDのAmazon購入特典でついてきます!
詳しくは公式HP
http://copcraft.tv/ をご覧ください。
(C)賀東招二・小学館/STPD