• 2021年の劇場アニメが良作ぞろいだった理由【藤津亮太スペシャル対談】
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2021.12.30

2021年の劇場アニメが良作ぞろいだった理由【藤津亮太スペシャル対談】

藤津さんが今年の収穫に選んだ1作『サイダーのように言葉が湧き上がる』(C)2020 フライングドッグ/サイダーのように言葉が湧き上がる製作委員会


藤津 そういう意味では、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』はすごいタイミングで公開されたと思います。緊急事態宣言が明けた瞬間にドーンと一気に。

編集長 しかも、次の波が来る前に上映終了しましたからね。

藤津 狙ってできるものではないけど、関係者の決断が上手くハマったんでしょうね。さらに付け加えるなら、『シン・エヴァ』と『竜とそばかすの姫』は最初から期待値が高い映画なので。ある意味力技で観客を説得したという印象がありますね。多分メジャー作品に求められるものってそういうところで、「気が利いてる」だけじゃもう済まない。あらゆる方向に向けて狙いを定めて、大量の弾薬で撃ちまくる感じの作りだなって思いました。

編集長 あれだけの記録を打ち立てた『シン・エヴァ』も作品力にあぐらをかかず、かなり力を入れて入場者特典を展開していましたし。

藤津 おそらく『シン・ゴジラ』の興収80億円をひとつの目標にしていたと思うんですね。監督揃い踏みの舞台挨拶でも「100億いきたいので、宜しくお願いいたします」と言っていたので。

編集長 そもそも舞台挨拶の開催も、これまでのシリーズの中では初めてですよね。

藤津 なかなかない機会ですよね、あれだけのキャストやスタッフが揃って。

編集長 まさかの庵野秀明総監督まで登壇というところに、ある種の気迫を感じました。

藤津 映画って昔はやっぱり初日がすべてだったんですが、劇場がシネコンになってからは変わってきましたよね。固定ファンがついてロングラン上映が可能になってくると、今回の舞台挨拶やスタッフトーク・キャストトークのような「中押し」が大事になってきてるんだなと。あとは4DX、ドルビーシネマなどのエンタメ性の高い上映で、ひとつの映画を何度でも楽しむスタイルも定着してきている。

編集長 ここ最近だと『アイの歌声を聴かせて』が劇場版『若おかみは小学生!』のような形で盛り上がって注目されているのも、それに近い動きを感じます。

藤津 そう、初速が厳しかったのにコアなファンの口コミで広がってロングラン、っていう流れに入りましたね。これは僕の勝手な想像なんですけれど、いくつかの例を見ていると、宣伝がそう悪いとも思わないんですが、観た人が宣伝されてる要素と自分が面白いと思った要素にギャップがあると「ここが面白いんだよ!」と口コミが発生するんじゃないかと思っています。

あと『シン・エヴァ』の外にも『EUREKA/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』、『蒼穹のファフナー THE BEYOND』第十~十二話、『銀魂 THE FINAL』、『シドニアの騎士 あいつむぐほし』といった、シリーズひと区切り感のある作品が並んだのも今年の特徴ですね。

>>>『漁港の肉子ちゃん』『映画大好きポンポさん』ほか紹介作品のビジュアルを見る(写真7点)

藤津亮太(ふじつ・りょうた)
1968年生まれ。アニメ評論家。新聞記者、週刊誌編集部を経てフリーライターに。アニメ・マンガ雑誌を中心に執筆活動を行う。近著は『アニメと戦争』(日本評論社)、『アニメの輪郭 主題・作家・手法をめぐって』(青土社)。

治郎丸慎也(じろまる・しんや)
1968年生まれ。1991年徳間書店に入社、月刊誌・週刊誌の編集部などを経て、2020年よりアニメージュプラス編集長に。

アニメージュプラス編集部

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