• 『鬼滅の刃』はなぜヒットしたのか!? 3つの環境から読み解く
  • 『鬼滅の刃』はなぜヒットしたのか!? 3つの環境から読み解く
2021.03.20

『鬼滅の刃』はなぜヒットしたのか!? 3つの環境から読み解く

『鬼滅の刃』はなぜヒットしたのか!? 3つの環境から読み解く


炭治郎のやさしさがキーポイント

『鬼滅の刃』も同様のメッセージは打ち出されていますが、一方で、主人公の竈門炭治郎は、味方だけでなく、敵である鬼にも慈愛のまなざしを向けます。

今回のインタビューのために、原作漫画を第1話から最終話まで読み直しましたが、炭治郎の「やさしい」ところがいっぱい出てきますよね。原作漫画の3話(コミックス第1巻第3話「必ず戻る夜明けまでには」)で剣技の師匠となる鱗滝さんが「思いやりが強すぎ」「鬼を前にしても優しさの匂いが消えない」と言う場面がありますが、その炭治郎の姿勢が一貫して作品の中で描かれているのがひとつのポイントです。炭治郎のようなタイプは、どちらかというといわゆる『進撃の巨人』のような「サヴァイヴ系」の物語の中では死んでしまう役ですよね。もう少し現実に適応しているような人が生き残っていくリアリティをそこでは描いているのですが、炭治郎はずっと自分の思いを貫き、生きていく。もっと言うと、これは2000年代くらいの空気がそうだったと思うのですが、非常に先行きが見えない、厳しい状況が目の前にある。じゃあ目の前の状況にどう対応するか。そのときの対応は基本的にどう対処するかというと、「今、どうするか」だったと思います。しかし、『鬼滅の刃』作中では、過去や未来といった視点を導入して、そこから登場人物たちの行動のリアリティを追及しているように思えます。

たとえば、作中に登場する鬼になった者の多くは、自ら望んでそうなったというよりも、社会の中で弱者であったがゆえに、「鬼にならざるを得なかった者」たちです。その結果、罪を犯した鬼たちを炭治郎たちは断罪するわけですが、炭治郎は断罪され消えるだけの状態になった鬼に、「慈しみ」の心を向けます。「罪を憎んで人を憎まず」を実践する、作中で一貫した、この炭治郎の姿勢は残酷な世界を描く作中において一服の清涼剤となっていまして、そして、この「慈しみ」の描写こそが他の作品にはない、『鬼滅の刃』の魅力なのだろう、と考えます。

炭治郎の優しさは度々描かれています。味方はもちろんですが、敵に対しても。鬼が走馬灯を見る際に過去が描かれますが、炭治郎はその今わの際に描かれる「哀しさ」を匂いでなんとなく察します。炭治郎はあくまでも鬼として犯した罪を断罪しますが、もともと「人間だったんだから」と、鬼を人として扱い、その人の部分に対しては憎しみを持たずに、赦す・承認する姿が一貫して描かれているように思います。このバランスがひとつ崩れると「理想論だ」と言われそうで難しいところであるのですが、あくまでもある程度のリアリティを作中で維持しながらそれを描いているのが『鬼滅の刃』の一番の魅力であり、作者である吾峠呼世晴さんの力量なんだろうと思います。

アニメージュプラス編集部

RECOMMENDEDおすすめの記事

RELATED関連する記事

RANKING

人気記事