【追悼】坂本龍一がアニメに遺した足跡『オネアミスの翼』『さよなら、ティラノ』

2023年3月28日、71歳で永眠した音楽家・坂本龍一さん。
イエロー・マジック・オーケストラ（YMO）のメンバーとしてテクノポップで時代を席巻し、『戦場のメリークリスマス』『ラストエンペラー』など映画音楽の分野でも世界的に活躍、“教授” のニックネームで親しまれ、幅広いジャンルで極上の音楽を作り上げた坂本さんの死は、世界中の音楽ファンに大きな衝撃を与えた。
そんな坂本さんがアニメ界に残した足跡を、あらためて振り返ってみよう。

◆教授とアニメ界の接近遭遇◆

スタジオミュージシャンとして活動した後、1978年に結成されたYMOで広く世に名前を知られるようになった坂本さんが、初めてアニメファンの身近に登場したタイミングは何時か？　と考えると、ひとつ思い起こされるのが1983年の飯島真理デビューアルバム『Rose（ロゼ）』だ。
『Rose』は1982年のアニメ『超時空要塞マクロス』のリン・ミンメイ役を演じた飯島真理のアーティストとしてのデビュー作で、坂本さんはそのプロデュースとアレンジを担当している。
『Rose』自体はあくまでアーティスト・飯島真理の作品であり、アニメとも『マクロス』とも直接の関係はないが、当時、ミンメイ役で人気を博していた飯島のアーティストデビューはアニメファンにも注目されており、アニメージュを始めとしたアニメ雑誌にもその発表は、坂本さんプロデュースの情報とともに大きく取り上げられた。
もちろん、当時すでにYMOのファンだったアニメファンも多数存在していたことは想像に難くない。とはいえ、坂本さんが　“アニメの世界” に間接的に接近遭遇した初めての機会が『Rose』だったと、今から振り返れば言えるのかもしれない。
▲『Rose』ジャケットとライナーノーツに掲載された飯島真理と坂本さんの写真

◆『王立宇宙軍』の異国情緒◆
そして、坂本さんが初めてアニメーション作品の音楽を担当したのが、1987年公開の映画『王立宇宙軍 オネアミスの翼』（山賀博之監督、）だ。
本作のために創設されたスタジオ「ガイナックス」によって制作され、庵野秀明、貞本義行、樋口真嗣ほか若き実力派クリエイターが集結したこの作品に、坂本さんは音楽監督として参加。上野耕路、野見祐二、窪田晴男と共同で劇伴を作曲した。
緻密な設定と独創的なデザインで地球とよく似た架空の世界のリアルを描き出した『王立宇宙軍』という作品において、何処とも知れぬ不思議な異国情緒を醸し出す坂本さんの音楽の存在感は非常に強く、時代を先取りした圧倒的な映像クオリティと共にアニメファンの印象に強烈に残っており、今なお高く評価されている。
なお本作は、坂本さんにとって『戦場のメリークリスマス』（1982年、大島渚監督）、『子猫物語』（1986年／畑正憲監督、市川崑協力監督）に続く３作目の映画音楽作品にあたる。そして、本作と同じ1987年の『ラストエンペラー』（ベルナルド・ベルトリッチ監督／日本公開は1988年）で坂本さんはアカデミー賞・作曲賞を受賞し、世界的な映画音楽家としての第一歩を踏み出すことになるのだ。
▲『王立宇宙軍 オネアミスの翼』キービジュアル

その後は、2004年の映画『アップルシード』（荒牧伸志監督）のサウンドトラックにアルバム『キャズム』収録の曲「coro」が使用されたほか、2007年にはYMOの盟友である細野晴臣、高橋幸宏と組んだヒューマン・オーディオ・スポンジ（HAS）から発展したユニット「HASYMO」の名義で『APPLESEED SAGA EX MACHINAエクスマキナ』（荒牧伸志監督）のサントラに参加、2020年『日本沈没2020』（湯浅政明監督）でOPテーマ「a life」を作曲（作詞・歌は大貫妙子）するなど、限られた形でしかアニメには関わらなかった坂本さん。
2012年にはスタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーとラジオ番組（TOKYO FM『ジブリ汗まみれ』）で対談し、その後、高畑勲監督作品の音楽担当を任されるも、「僕の音楽がシリアスすぎて、結局解雇されてしまったんです（笑）」（第17回トライベッカ映画祭、ドキュメンタリー映画『Ryuichi Sakamoto: CODA』上映後Q&Aでの坂本さん自身の発言）という幻の企画もあったそうだ。

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