• 『名探偵コナン』ED曲<クウフク>に込められた「満たされない愛」
  • 『名探偵コナン』ED曲<クウフク>に込められた「満たされない愛」
2023.02.18

『名探偵コナン』ED曲<クウフク>に込められた「満たされない愛」

今夜、あの街から:新曲「クウフク(starring VALSHE)」

『名探偵コナン』2月18日の放送回から新エンディングテーマとして、“今夜、あの街から”の新曲「クウフク(starring VALSHE)」が流れる。“今夜、あの街から”は、ノラとレイラという男女のキャラクターが生み出す物語を、毎回異なるボーカリストが歌で表現することで話題のネット発のユニット。今作「クウフク」のボーカルは、これまで「Butterfly Core」と「君への噓」という『名探偵コナン』テーマ曲を担当した経験を持つVALSHEが担当。力強さと切なさを兼ね備えたVALSHEのボーカルが、空虚で閉塞的な世界観をはらんだ“今夜、あの街から”のサウンドとマッチしたものになった。後半戦は、「クウフク」という楽曲に込められた様々な伏線や“ボーカロイド音楽”というジャンルについて聞いた。(後編/全2回)

【前編】<今夜、あの街から>ノラとVALSHEが語る『名探偵コナン』との出会い

■VALSHEさんが思い描くレイラさんを表現してほしい

――VALSHEさんは、「クウフク」という曲を初めて聴いてどうでしたか?

VALSHE:自分はこれまでノンジャンルでいろいろな曲を歌って来ましたが、それでも歌ったことのない曲調で新鮮でした。「クウフク」は今主流のサウンド感と、所謂ボーカロイド文化が積み上げて来た確固たるメロディ感が上手くマッチングしているところが印象的です。そこに対してポジティブともネガティブとも違う歌詞が乗っている妙が、すごく好きですね。最初から自分にしっくり来て、レコーディングにも意欲的に臨めました。

――ハモりや掛け合い、ユニゾンで歌うなど、おふたりの声が入り乱れていて、聴いて圧倒されました。VALSHEさんは、歌ってみて難しかったところはありましたか?

VALSHE:先ほどノラくんが、“ヨルマチ”は毎作ごとに歌詞やサウンドで表現したい物語があるとおっしゃっていましたが、その上で「クウフク」の歌詞を読んだ時に、どういうアプローチをすれば正解なのかすごく考えました。今回はいろいろなアプローチを試して、最終的にノラくんが正解を選ぶという手法だったんですけど、いつもの自分の楽曲とは違って、自分が主導していないからこその難しさがありましたね。別の言い方をすると、それがコラボならではの面白さだなと実感しました。

ノラ:VALSHEさんには、あくまでもレイラさんというキャラクターを演じていただくので、ここまで作り上げてきたレイラさんからあまり離れすぎても物語が続かなくなってしまいますが、僕がVALSHEさんに魅せられたのは、ライブでのパワフルで繊細なパフォーマンスなので、VALSHEさんが思い描くレイラさんを表現してほしいと、僕からはお伝えさせていただきました。レコーディングではVALSHEさんなりのレイラさんを歌い方で何パターンも考えてきてくださって、どれもすごく良くて、そこから一つを選ばなければいけないのが悩ましかったです。

■内気で優柔不断なノラくんを引っ張ってくれるレイラさん

――レイラさんの基本的な像と言うか。どの曲にも一貫しているレイラさんは、どういうものですか?

ノラ:“ヨルマチ”の中でレイラさんはムードメイカーで、優しさと強さを兼ね備えていて、内気で優柔不断なノラくんをサポートして引っ張ってくれる存在です。優しさと強さという面で、VALSHEさんの歌はとてもマッチしていると思いました。きっとVALSHEさんの強さの芯には、優しさがあるのだと思います。これまでのレイラさんよりだいぶクールではあるけど、根本のキャラクター性ではすごくマッチしているなと思いました。

VALSHE:デモの段階で、いろんなパターンを録ったんです。焦りを抑えたちょっとクールな感じとか、自分自身の中の満たされない感情を全面的に出した感じなど。いろいろ提案させていただきながら、ノラくんが上手く構成してくださって。その上で本番に臨んだので、プリプロに時間をかけた感じですね。

■女性キャラクターが食事をしているエンディング映像を勝手に想像

――「クウフク」というタイトルですが、これまでも「レジリエンス starring nui」、「イミテイション starring 珀」など、曲名はいつもカタカナなんですね。

ノラ:「クウフク」は、どれだけ食べても満たされない「空腹」を歌っているのと同時に、恋愛や親愛などの満たされない愛の歌でもあるので、漢字の「空腹」をタイトルに付けると食べ物の歌だと受け取られてしまうと思って。それも間違ってはいないけど、それだけの歌ではないので、意味をぼやかしてどちらの意味にも受け取れるようにカタカナの「クウフク」にしました。“ヨルマチ”の曲は、タイトルを付ける時に漢字にするとしっくり来ないことが多くて、たまたまカタカナばかりになってしまって(笑)。

――満たされない愛というのは、『名探偵コナン』のエンディングテーマとして受け取った場合、新一くんと蘭ちゃんの気持ちと重ねているのですか?

ノラ:今回は特定のキャラクターを想定しるわけではなくて。『名探偵コナン』に出てくる男女はいろんな宿命を背負っていたり、自分の気持ちを押し殺してそうじゃないように振る舞っていたり、そういう人物が敵味方問わずたくさん出てきて、みんな満たされない気持ちを抱えているんじゃないかと思ったんです。だから僕の中では、『名探偵コナン』の世界の人なら、誰が歌っても当てはまるようにということを意識して書きました。

VALSHE:自分の作品を作る上でも、絵が浮かぶ歌詞やサウンド作りを意識しているのですが、「クウフク」もすごく映像が浮かんで、曲と共にエンディングで流れる映像のコンテが自分の中で勝手に切られるくらい、すごく情景が浮かぶ歌詞とサウンドだと思いました。『名探偵コナン』のキャラクターにも当てはまるし、それを観る自分たち自身にも当てはまる、いろんなことに置き換えられる曲だと思いました。

――VALSHEさんは、実際にどういうエンディング映像を思い浮かべたのですか?

VALSHE:女性キャラクターがたくさん出てきて、みんなで食事をしていたらいいなって。歌詞に〈フルコース〉とも出てきますし、食事に紐付いた言葉がたくさん出てくるので。

ノラ:〈フルコースだって味がしないようで〉というフレーズはこだわったので、何かを食べていてくれたらうれしいです。

■フル尺のみのギターソロとリズムパターンをぜひ聴いてほしい

――サウンド面で、何か意識した部分はありましたか?

ノラ:僕の中で意識していることは無いのですが、ボカロPであるという経験が自然と表れていると思います。“ボーカロイド音楽”と言うと、一括りにできないジャンルの幅広さがあるのですが、でもすでに“ボーカロイド音楽”というジャンルができていて、僕の曲を何かのジャンルに当てはめるとしたら、きっとボーカロイド音楽になると思います。そこに毎回新鮮な気持ちで作りたいと思って、自分にとって新しい楽器の音色を使うのですが、今回は今まで使っていなかったブラスの音を使いました。あと、効果音やSEなどのドラムではない音色を使って、リズムパターンを構成しているパートもあって。自分なりに挑戦した楽曲にもなっています。

――全部打ち込みですか?

ノラ:ギターを除いて、全部打ち込みです。ギターは譜面と打ち込みの音源をギタリストの方にお渡しして弾いていただきました。ただ、打ち込みだと実際にはすごく弾きにくいフレーズもあって、きっと大変だったと思うんですけど、想定以上のすごくいい演奏をしてくださって。楽曲のクオリティが、一段アップした感じがあります。

VALSHE:ボーカロイド音楽って本当に不思議で、バラードもあればロックもあるしアイドルっぽい曲もあったり、ノンジャンルだけど「ボカロっぽいよね」と誰もが共通して感じるものがあるんです。だから今回の楽曲を聴いた時は、すごく新鮮さもありながら、ボカロ音楽を通ってきた自分の中にある要素も感じました。個人的にはギターのアレンジがすごく好きで、ギターが鳴り響く間奏にノラくんのこだわりを感じます。だからアニメで流れる部分以外も含めた、フル尺をぜひ聴いてほしいです。

ノラ:さっき話したドラムじゃない音を組み合わせて作ったリズムも、TVサイズには入っていないので、ぜひフルサイズを聴いてほしいです。

■世代を越えて、お互いもっとバトンを投げ合って行きましょう!

――今後について、どんな活動を考えているか教えてください。

ノラ:“今夜、あの街から”というユニットを始めたのがちょうどコロナ禍に入ってからで、閉塞的な街から抜け出したいというストーリーも、コロナ禍という状況と無意識で重なりました。ユニットを立ち上げた時僕は大学生で、授業もオンラインで大学に全く通っていない時期もあったんです。そういうこともあって僕はすごく閉鎖された環境にいたのですが、いろいろな方とコラボをさせていただく中でたくさんの刺激をいただいて、自分の気持ちも開放的になっていきました。これからは部屋の中でひとりで作る音楽から、もっと外に発信して行くような形になっていけたらいいなと思います。例えばライブを行うとか、自分の内側に向かうのとは違う活動をしていきたいです。

VALSHE:自分自身が歩んできた音楽人生の中では出会えなかった、音楽の可能性や未来が、ノラくんの世代では当たり前になっていて、今回新しいものに触れる機会を与えていただけたことは、感謝の気持ちでいっぱいです。VALSHE個人としては、今後はアルバムのリリースやツアーなどたくさん予定があるのですが、今回のコラボという経験を生かした制作や活動ができたらいいなと思っています。世代は違いますけど、自分の世代からノラくんの世代へバトンを受け渡すのではなく、「お互いもっとバトンを投げ合って行きましょう!」という感覚です。

――もしライブで全曲やるとしたら、レイラさん役が7人も。

ノラ:さすがに全員は無理でしょうけど(笑)。これまでヘッドフォンなどで聴いてもらっていた曲を、みんなと一緒にスピーカーから流れる大音量で聴きたいです。作者としてもいちリスナーとしても聴いてみたい。もしよろしければVALSHEさんにもご参加いただいて、一緒に「クウフク」を歌いたいですね。

VALSHE:ぜひ、よろしくお願いします!

ライター:榑林史章、編集:アニメージュプラス

RECOMMENDEDおすすめの記事

RELATED関連する記事

RANKING

人気記事