• キタニタツヤが語る、『BLEACH 千年血戦篇』に“傷跡”を刻む曲【後編】
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2022.11.21

キタニタツヤが語る、『BLEACH 千年血戦篇』に“傷跡”を刻む曲【後編】

キタニタツヤが語る、『BLEACH 千年血戦篇』に“傷跡”を刻む曲

自身の音楽活動のほか、Adoやまふまふなどネット発アーティストの楽曲への参加や、ジャニーズWESTなどへの楽曲提供など幅広く活躍するキタニタツヤが、アニメ『BLEACH 千年血戦篇』オープニングテーマ「スカー」を収録したEPをリリース。同作には他に、新曲「永遠」や、BLEACH生誕20周年記念原画展『BLEACH EX.』のイメージソング「タナトフォビア」と、同テーマソング「Rapport」など収録し、『BLEACH』をイメージした一作に。もともと原作の大ファンだったというキタニ。「スカー」の制作秘話と共に、『BLEACH』愛がほとばしるトークを展開してくれた。後半戦では、藍染惣右介が象徴する『BLEACH』の魅力や、『BLEACH』の哲学に通じるキタニ楽曲について聞いた。(後編/全2回)

【関連記事】キタニタツヤが語る、『BLEACH 千年血戦篇』に“傷跡”を刻む曲【前編】

■僕の中にいる“イマジナリー萌えヤンデレ妹”が歌ってくれた

――『千年血戦篇』は、死神とクインシーの戦争となっていますが、どんなところに魅力を感じていますか?
キタニ:最終章なのに、新キャラクターが出まくるのが、ゴージャスでうれしいじゃないですか。曲でもラスサビで、もうひと展開あるとうれしいみたいな。“まだあるよ”っていう感じ。純粋に魅力的なキャラクターが増えまくるのが、一つ大きな魅力ですね。

――敵のクインシーもみんなキャラ立ちが良くて。
キタニ:めっちゃ嫌な奴だったりするけど、憎めなかったり普通にいいやつもいるし。可愛い女の子がいっぱい出てくるのがうれしいです(笑)。

――もう1曲の「永遠」もすごく格好良くて、この曲も『BLEACH』に通じるものを感じます。
キタニ:コンペでは「スカー」を含めた3曲を提出したんです。その中に「永遠」もあって、最終的に「スカー」に決まったんですけど、僕のイチオシは「永遠」だったんです。ただ、「スカー」に決まって考え直してみると、曲調的にもOP映像を作る観点からも、『BLEACH』的ではないかもな、と思いました。歌詞は『BLEACH』をすごく意識したけど、アニメの映像になるということまでは、確かにそこまで意識が回っていなかったかもしれない。そういう部分では反省が残る曲ではあったんだけど、自分としてはめちゃめちゃ気に入っているし、歌詞もよく書けているなと思って。それで、歌詞だけ書き直して別のタイミングで発表するのは、自分の中では考えられなかったので、いっそ今回一緒に入れてしまおう、と。

――個人的には、ザ・ヘヴィーというバンドの「セイムオール」という曲を、ちょっと彷彿としました。
キタニ:ああ、ペプシの桃太郎のCMで流れていた曲ですよね。俺もあの曲はすごく好きで、自分でも何曲かああいうイメージで作ったことがあります。あと、イマジン・ドラゴンとかもそれと近いイメージで好きなバンドですね。

――そういう洋楽の影響をすごく感じさせますね。
キタニ:そうですね。ドシーンドシーンって、ノシノシ歩くみたいな。ただこの曲に関しては、完全に映画『グレイテスト・ショーマン』です。ストンプって言うんですか? みんなで足を踏み鳴らすシーンがあって。自分の曲でもやってみたいと、ずっと思っていたことをここでやりました。

――ボーカルは地声と加工した声が出てきて。女の子っぽい声もあって。
キタニ:あれは僕の可愛い妹が歌ってくれています(笑)。僕の中にいる“イマジナリー萌えヤンデレ妹”が、一生懸命歌ってくれました。

――違う声がいくつも出てくるので、曲の中で視点が変わるイメージがあるのかなと。
キタニ:純粋に声と言う楽器が好きなだけで、好き放題イジっているだけです。ただ声が及ぼす影響は大きいので、声が変わった瞬間おっしゃる通り視点が変わる感覚があってもおかしくないと思います。

■敵も味方もなく、みんな憎めないのが、『BLEACH』の魅力!

――歌詞はどういうイメージで
キタニ:これも先ほど言った通り、藍染惣右介なんですけど……。原画展を観に行った時、藍染惣右介が出てくるとあるシーンの展示がすごく印象的だったんです。そこから、曲を作るために改めて読み直した時に、原画展のイメージが大きくて、やっぱりそのページが印象的に浮き上がってくる感じがして。「これが『BLEACH』に通底する哲学のひとつかもしれない」と思わされて、最初に「永遠」を書き、「スカー」はその後に書いた曲だったんです。

――藍染惣右介は死神の中では裏切り者で、その藍染にそこまで思い入れを持つ理由は何ですか?
キタニ:藍染には藍染の正義があって、クインシーのユーハバッハもそうで、ユーハバッハなりの正しさを求めた結果、“永遠”を求めることになるわけです。結局、敵も味方もなく、みんな憎めない。

――でも、藍染が敵だと分かった時は、みんなすごくムカついたじゃないですか。
キタニ:そうそう(笑)。ただ最終的には、そこまで憎めないと言うか。「あんたにはあんたの正しさがあったんやね!」って。だから、そこが『BLEACH』の魅力なんですよ。

■僕は天才ではないから、考えて考えて、仕込んで仕込んでやるタイプ。

――『BLEACH』のキャラクターはみんな、いいやつも悪いやつも両面を持っていて、それが『BLEACH』の魅力だと。キタニさんの楽曲も、1曲の中に二面性が感じられて、『BLEACH』の持つ魅力と通じたものがあると思いました。
キタニ:確かにそうですね。王道の皮をかぶっていて、王道として楽しめるけど、一歩踏み込んだら全然違った一面が顔を覗かせるのは、『BLEACH』的だし、自分の作品はそうでありたいとよく思います。だから「スカー」に関しても、「アニメのオープニングテーマはこれだよね!」みたいな、ザ・王道といった感じに聴こえてほしいと思って作ったんですけど、歌詞を読み込んでみたらすごく暗くて。でも、それが僕が思うポップスで、自分がアーティストとしてポップスを志す上で、常々意識していることでもあります。あと、ちゃんと読めば読むほど味がするみたいな。『BLEACH』も結構難しいテーマだけど、かと思えば誰もが格好いいと思うバトルシーンもたくさんあって。そのバランス感、ブレンド感は、自分が曲を作る時もすごく考えます。

――「スカー」もそうですが、キタニさんの楽曲は、曲のアイデアも歌詞の内容も考察しがいがすごくある曲ばかりです。ただ、そういう曲を作るのは大変ではないですか?
キタニ:頭はすごく使いますね。でもそういう曲のほうが、長く愛してもらえるんです。パッと聴いて「いいな」と思う曲は、その人のその後の人生において残るものにはならない。それこそ10年後も聴き返して「いいな」と思われる曲は、深みを持っているからだと思うんです。『BLEACH』が長く愛されている理由のひとつもそれだし、自分の作品もそうでなければいけないなって。

――でも、パッと思いつきでできた曲が名曲とされることもありますよね。
キタニ:確かにそうですね。でも、それができるのは、その人が天才だからですよ。時代に愛されている人。僕はそういうタイプではないので、考えて考えて、仕込んで仕込んでやるタイプです。だから曲作りは、ものすごく時間がかかります。弾き語りでフフフ〜ンってやったら名曲ができるなんて、自分には想像もできないです。

――「フフフ〜ン」ではなく、「ウウ〜ン」ですか。
キタニ:ひたすらパソコンに向かって「ウウ〜ン」ってね。音楽家としてはどうかと思いますけどね。ギターも持たずマウスをカチカチやって、「ウウ〜ン」って唸ってるっていうのは(笑)。

■好きなキャラクターは涅マユリ。クリエイター気質でアーティスティック

――「スカー」に関して、『BLEACH』ファンの反応は?
キタニ:正直、怖くて見に行けてないです(笑)。友だちや人づてに聞く限りは、概ね悪い評判ではない、と。それに原作者の久保帯人先生とアニメ制作チームの皆さんが、「この曲がいい!」と選んでくださったのだから、その言葉を信じて「評判なんて関係ないぜ!」という気持ちで、心を保っています(笑)。原画展から、僕は『BLEACH』ファンを怖がりすぎですよね(笑)。でも、『BLEACH』ファンは精鋭部隊なので!

――久保先生とは直接やりとりもあるんですか?
キタニ:久保先生は、いつでも褒めてくださるので励みになります。コンペで3曲出した時も、すぐにラインをくださって「3曲ともいいよ。これは迷うわ。ありがとう」って。優しくて泣きました。原画展の時も、毎回「いいね」って、僕に勇気をくださって。本当に素晴らしい大先輩です。

――ちなみに『BLEACH』と言えば、斬魄刀と卍解です。『千年血戦篇』も卍解がキーになっています。キタニさんにとっての斬魄刀は、ギターとかベースとかですか?
キタニ:そう言えたらロックアーティストとして格好いいんですけど、普通にパソコンです(笑)。卍解してスペックが爆上がりしたら最高ですけど。

――好きなキャラクターは?
キタニ:涅マユリです。めっちゃ強いし、いいものができても、満足することなく作り直す。クリエイター気質で、アーティスティックで格好いいです。「私は完璧を嫌悪する」というセリフもいいですよね。


ライター:榑林史章、編集:アニメージュプラス

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