• キタニタツヤが語る、『BLEACH 千年血戦篇』に“傷跡”を刻む曲【前編】
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2022.11.21

キタニタツヤが語る、『BLEACH 千年血戦篇』に“傷跡”を刻む曲【前編】

(C)久保帯人/集英社・テレビ東京・dentsu・ぴえろ

自身の音楽活動のほか、Adoやまふまふなどネット発アーティストの楽曲への参加や、ジャニーズWESTなどへの楽曲提供など幅広く活躍するキタニタツヤが、アニメ『BLEACH 千年血戦篇』オープニングテーマ「スカー」を収録したEPをリリース。同作には他に、新曲「永遠」や、BLEACH生誕20周年記念原画展『BLEACH EX.』のイメージソング「タナトフォビア」と、同テーマソング「Rapport」など収録し、『BLEACH』をイメージした一作に。もともと原作の大ファンだったというキタニ。「スカー」の制作秘話と共に、『BLEACH』愛がほとばしるトークを展開してくれた。前半戦では『BLEACH』が呼び起こした、キタニタツヤの初期衝動について聞いた。(前編/全2回)

■大学生の時にコミックス全74巻を大人買い

――そもそも『BLEACH』ファンだったそうですけど、子どもの頃ですよね。
キタニ:小学生の頃にアニメをやっていて、でも当時は何となく観ているだけの感じでした。周りのみんなは『BLEACH』にハマっていたけど、僕はまだ『コロコロコミック』で止まっていて、『でんぢゃらすじーさん』くらいがちょうど良くて(笑)。だから、ちゃんと読んだのは大学生になってからです。周りにいたクリエイターとかミュージシャンの仲間から、「『BLEACH』を読んでいないのはヤバイよ」って。それで、みんながそこまで言うならと思って、全巻一気買いをして読み始めたわけです。

――全74巻を一気買いってすごいですね。
キタニ:漫画自体は好きだから、そこは何の抵抗もありませんでした。名作なら読んでおいて損はないだろうと、そのくらいの気持ちでした。でも読んだら、大ハマりしてしまいまして。少年漫画の延長でバトルや武器が格好いいという視点で読める作品でもあるけど、掘ろうと思えば考える余地はたくさんあると言うか、『BLEACH』の中にある哲学的な部分に対してすごく感銘を受けました。そういう部分では、子どもの頃にハマって読むより、大人になってから読んだのが、良かったと思いました。

――その感銘を受けた哲学と言うのは?
キタニ:それは、曲に反映されているところで。今回の『BLEACH』で言えば、重要キャラクターの藍染惣右介がフィーチャーされるシーンがあって、そのシーンをイメージして「スカー」と「永遠」を書いたんです。「Rapport」に関して言えば、志波海燕というキャラクターのとあるシーンに感銘を受けて作りました。きっと曲を聴けば、僕が『BLEACH』のどこから影響を受けたか、結構分かりやすいと思います。

――そんな大好きな作品と関われる。BLEACH生誕20周年記念原画展「BLEACH EX.」イメージソング「タナトフォビア」テーマソング「Rapport」の制作を依頼された時は、どういう気持ちでしたか?
キタニ:「マジ?」という感じでした(笑)。20周年という特別なタイミングでしたし、原作ファンが押しかける原画展だから、結構なプレッシャーだったと言うか、ちょっと怖かったです。『BLEACH』を追いかけ続けている人はすごくコアだし、中身が深い作品なので、歌詞で間違ったことを言ったらめっちゃ怒られるんじゃないかと。『BLEACH』の世界と相反することなく、その中で自己表現をしないといけなくて。だから、怖くてたまりませんでした(笑)。

■ASIAN KUNG-FU GENERATIONの「アフターダーク」をたくさん聴いた

――TVアニメ「BLEACH 千年血戦篇」オープニングテーマを担当することが決まった時は、どんなお気持ちでしたか?
キタニ:普通にコンペだったんですけど、「そりゃあ俺が獲らなあかんでしょう!」という気持ちでした(笑)。文句を言わせないくらいいい曲を絶対に作って、キタニタツヤを選ばせてやるぜと、気合いが入っていました。

――「スカー」は、イントロのギターがすごく格好いいです。フレーズは、やはりこだわったのですか?
キタニ:そこは初期衝動と言うか、手に染みついていると言うか。実は今回、フレーズの吟味はあまりしてなくて。逆に「Rapport」の時はめちゃめちゃ考えて、デモによって全くフレーズが違っていたんです。でも今回はギターのリフに限らず、ベースのラインもあまり推敲せず、思いついたらどんどん入れていくという、バンドの曲作りみたいな形でした。バンドって、みんなでスタジオに入って「せーの」で音を出すじゃないですか。それを家で、ひとりでやっていたみたいな。アドリブとか、突発的に適当に弾いたものでも、いいと思ったらすぐ採用する感じで、むしろこだわらない方向でがんばったという感じです。

――「Rapport」の時は違ったけど、今回はそういうやり方がいいと思った。
キタニ:そうですね。自分の中でも、初心を思い出せるような曲にしたかったからです。

――その初心と言うのは、『BLEACH』と最初に出会った小学生の時の気持ちとか?
キタニ:『BLEACH』がどストライクなのは、20代中盤の自分の世代だと思うんです。少年時代にアニメを観て、「こういう展開が来てうれしかった」とか、そういう気持ちをすごく意識しました。だから自分がその頃に好きだったものを、たくさん思い出しながら作りましたね。例えばその時代の、日本のロックシーンとか。

――アニメ『BLEACH』は、バンドがテーマソングを担当していたことが多く、日本のロックシーンとも親和性が高かったです。当時のテーマソングのことは意識しましたか?
キタニ:原画展の時は、「Rapport」を作る前に、ORANGE RANGEの「*~アスタリスク~」をすごく聴きました。当時、周りのみんなはアイドルとかが好きと言っていたんですけど、急にみんなが「格好いい」と言うようになったロックがあって、それが「*~アスタリスク~」だったんです。

――キタニさんが小学生だった時代、それまでロックを聴いていなかった人を振り向かせた曲が「*~アスタリスク~」で、それが『BLEACH』のテーマソングだったと。
キタニ:そこまで真剣に観ていたわけではないけど、やっぱりOP映像とか結構覚えているんですよね。当時『BLEACH』ってこういう感じだったなって。ただ今回に関しては、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの「アフターダーク」をたくさん聴きました。そもそもアジカンが好きで、『BLEACH』のOPで流れた映像もアイコニックだったし。



■「あの日の少年キタニタツヤ」を喜ばせる曲にしたい!

――今「スカー」と一緒に流れている映像も、すごくスタイリッシュでびっくりしました。
キタニ:すごいですよね。モノクロにピンク一色ですから。「何それ? 新しい!」って思いました。格好よすぎます。

――タイトルの「スカー」は「傷跡」という意味ですが、それをタイトルにしたのは、どういう理由があってのことですか?
キタニ:傷という言葉自体は『BLEACH』に出てこないんですけど、怖かった経験がトラウマになっていたり、物理的に攻撃を受けて傷になっていたり、そういうものがどんどん自分の中に蓄積されていって、それが恐怖に繋がる。これから先、死ぬかもしれないのに生きていくのって、怖いじゃ無いですか。周りの仲間はどんどん死んでいくし。それが『BLEACH』の世界で。そうやって蓄積されたものの象徴が傷で、結局はそれと一緒に進んでいく。主人公も他のキャラクターもそうで、恐怖はあるけど、それに負けて逃げちゃおうじゃなくて、その人自身の人生と向き合っていく。そういうもののイメージの象徴として、傷という言葉がありました。それで、その言葉をタイトルに据えたいと思いました。

――傷を背負ってというのは、一護の視点かなと。
キタニ:もちろんそれもあります。でも一護が代表してはいるけど、きっといろんなキャラクターについても言えることなんです。何かを背負って死んでいった仲間のことかもしれないし、自分が恐れることかもしれない。それを全部ひっくるめて背負って行く。例え作中で描かれていなかったとしても、『BLEACH』に出てくる人は誰もがそういうものを背負っているんです。きっとそれが『BLEACH』という作品に通底しているテーマのひとつなのかもしれないなと思います。みんなが持っている哲学と言うか。

――「傷」ではなく「スカー」と表現されているのもいいですね。
キタニ:純粋に「傷」という曲名では味気ないし、やっぱり「あの日の少年キタニタツヤ」を喜ばせる曲にしたいというイメージがあって。そうなった時に、「スカー」という曲名のほうが、くすぐられるものがあるんじゃないかなと。

――キタニさんの中にある、“中二病”をいかに刺激するか、みたいな。
キタニ:まさにそうです。想像力をかき立てるものじゃないといけないと思ったし、言葉としての響きもいいと思ったし。



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ライター:榑林史章、編集:アニメージュプラス

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