• 谷口悟朗監督が藤津亮太に迫る「アニメ評論家」という仕事とその現実
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2022.10.01

谷口悟朗監督が藤津亮太に迫る「アニメ評論家」という仕事とその現実

(左より)藤津亮太氏、谷口悟朗監督


藤津 今回本を読んで頂きましたが、内容に関してはいかがでしたか。

谷口 いやー、触発されて先日『機動戦士ガンダムF91』を観直しちゃいました。最初観た時には正直混乱したので、考えるのをやめて目の前の事象に身を委ねるしかなかったんですが(笑)。

藤津 この原稿では、冒頭30分の手際の素晴らしさにのみ言及している感じです。あそこは村瀬(修功)さんの作画監督パートでもあって見ごたえがありますし。

谷口 あと『パンダコパンダ』はここまで考えなくてもいいんじゃないですか?(笑) 特に『雨ふりサーカスの巻』はロジックでいうと完全に破綻してますからね。

藤津 おっしゃる通りですね(笑)。あの原稿はあえて攻めた内容になっているんですよ。作中におけるファンタジー=水の量というやつなんですが、何か高畑(勲)監督のテイストと宮崎(駿)監督のテイストの違いをうまくいえないかと、根拠を探していって書こうとした時にそこしか選べなかったという(笑)。

谷口 あと特定の人の仕事に憧れている現場スタッフは多いんですけれど、こういう本で持ち上げてもらうと、人によってはさらに現場が苦労するという面がありましてね……(苦笑)。

藤津 そこまで読みこんでもらえていたら、こちらとしては、むしろありがたいところなんですが(笑)。

谷口 私は出崎統さんみたいな人をもっと評価してほしいと思うんですよね。出崎さんが亡くなられた時、あれだけの功績を残した人なのにアニメ業界で追悼式典などの動きが無かったことがすごくショックだったんですよ。だからせめて後世に、その仕事を遺してあげてほしい。あの主観と客観の切り分け、時間と空間の引き延ばしは凄いことだと思うんですよ。

藤津 この本に入れた出崎さんの原稿は2003年に出版された時には掲載されていなくて、その後ムック「『アニメージュ』が見つめたTMSアニメ50年の軌跡」に執筆した『ゴルゴ13』の原稿と、亡くなった後に文藝別冊に執筆したものを加えたんです。

谷口 『ゴルゴ13』の原稿は面白く読みました。最初に観た時から「残念なことに君は人間じゃない」というセリフの後に音楽がかかることがずっと気になっていたんですよ。後年になって観直して、「そうか、これはドーソンの映画だったのか!」と。人間だから倒せると思っていた相手が実は違っていたという、その衝撃であの音楽だったのか、と腑に落ちたんですが、そこに至るまでに時間がかかったわけですよ。でも、藤津さんの文章があればそこに容易にたどり着けたというね(笑)。

藤津 僕も初見は中学生だったので全然理解できなかったんですけれど、資料を参照していろいろ点を集めていくと、まあそうなるんだろうなぁと。ストーリーは完全にドーソンの感情で動いていて、ゴルゴは物語の牽引力にはなっているんですが、ドラマの中心ではないんですよね。

谷口 あと、この本に書かれている演出意図について、実はアニメの制作現場で共有できていないんですよ。暗喩や明喩みたいなものを演出で入れても「そんなの、誰も気づきませんよ」とか平気で言われることがあってね。だから、そういうことをキチンと伝えなければならない、という状況が現在までずっと続いているんです。
下手するとイマジナリーラインを知らないし、コンテが何の略かも知らない人もいるんですから。そういう映像の基礎知識が、日本の教育ではなされていないわけですよ。専門学校では技術だけを覚えさせる場所なので、そこは結局個人で獲得していくしかないわけです。

藤津 学問としてのアニメーションに関しては今過渡期で、大学で研究するアカデミシャンと実制作者、在野のライターがそれぞれバラバラで活動している状態なんだと感じています。ただ、大学でもアニメーションについてきちんと扱うところも増えつつあるので、そこは徐々に慣らされていくんじゃないかとは思っているんですが。

谷口 そういうものを誰かまとめてくれていると楽なんですけれどね……実際問題アニメ業界が発展するには、裾野が広がっていくことが絶対条件であるんですよ。そういう流れの中で個人的にもっと評価しなければいけないと思っているのは『サザエさん』や『それいけ! アンパンマン』のような長寿アニメシリーズですね。すべての世代に通用する作品ですが、語られる機会もないですから。

あとこれは藤津さんに言ってもしかたないとは思うのですが……日本のアニメ評論はどうしても男性が中心になっているんですよね。そのせいで、女性の目線で拾わなきゃいけない作品がこぼれている印象があるんですが、そこに関してはどうお考えですか。

藤津 その点に関しては、僕もすごく悩んでいるところです。トークイベントで女性の意見がほしくてゲストを探すことがあるのですが、僕の周りだけでもなかなかに難しくて……男女を問わず、定期的にアニメのレビューを書く仕事を皆さんにもっとやってほしいんですけれど。現在、それを長期的に継続してやっているのは、僕と氷川竜介さん、あと前田久さんぐらいなんですよ。

編集者や制作サイドの方と話すと、氷川さんと僕はだいたい同じタイプという認識の方が多くてそれもわかるんですけど、自分としては結構違うと思っていて。先程言ったとおり、僕は自分の好きなタイプの原稿を書き続けて生活できればいい、という姿勢が根源にあるんですが、氷川さんは現在「アニメや特撮という映像文化を守ろう」という確かな意識で取り組まれていて、その立脚点の違いが、芸風の違いになっているかなとと思っています。

僕は作品を観て腑に落ちない点を「こういう観方をすれば筋が通りますよ」という案内をする原稿をいっぱい書きたいなと思っていますし、それを活動の縦軸としたいんです。

谷口 業界を活性化させるために「今はこの人を褒めておいた方がいい」という流れがあったりするじゃないですか。そういう動きに加担することはありますか。

藤津 話題作があって原稿を書いてください、と言われれば書きますが、「その人について」と言われると書ける人と書けない人がいますね。ある程度の資料や客観的なスタッフの発言が残っていて足跡を追いかけていくことが可能なら書けますが、そういう人は限られているので。あくまでも作品のフィールド内で語るということで、それは谷口さんから見たら「流行に乗っている」と思われるのかもしれませんけれど。ただ、今は誰かの肖像を書くというよりは直接本人を取材する、という依頼の方が普通に多いと思いますので。

谷口 確かに、それは大事なことなんでしょうね。監督はアイコンとして機能しますから、ね。そこが作品は属人的だと勘違いされる理由のような気はします。

藤津 同業者と「アニメで、『江夏の21球』のようなアプローチでノンフィクションをまとめることは可能か?」という話をすることがあるんですが、仕掛時間が長いのと、デスクワークと打ち合わせをどう俯瞰して描写するか、という部分がどうしても解消できなくて。

谷口 吉本浩二さんの漫画『ブラックジャック創作秘話』(原作:宮崎克)みたいに、いくつかの目線が入った形ならアリかもしれませんけれどね。

藤津 自分としては、それとも別なやり方があるんじゃないか、とは思うんですけど、山は高いですね。

谷口 あと、近頃はCGアニメが台頭してきていますよね。手描きのアニメとは語るロジックも違ってくるわけですが、その辺りはいかがですか。

藤津 そうなんです、なので3D作品の場合は勉強だと思って、出来る限りメイキングの取材をしています。ただ、その時毎回パソコンを持ってきてもらって、実作業をしてもらいながら話を聞くわけにはいかないので(笑)、難しい部分もありますね。

※出崎統さん、宮崎克さんの「崎」は【立】の崎になります

アニメージュプラス編集部

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