――『THE ORIGIN』では「シャアの曲」ともいえるメインテーマを、シチュエーションに合わせてアレンジして使っていましたが、今回はまたアプローチが違った印象を感じました。服部 おっしゃるとおり、いつもならテーマが決まるといろんなバリエーションを作って、各場面に当てていくんですが、今回は打ち合わせの時にそういう話にならなかったんですね。普通なら誰かが「ここでドアンのテーマのバリエーションを……」と言ったりするんだけど、誰もそういう意見は出さず、僕もなぜかそういう風に考えなかった。
――『THE ORIGIN』はOVAという連続で観ていく作品であるという性格上、観る側にイメージを固めさせる曲が必要だった。一方『ククルス・ドアンの島』は各シーンのイメージを大事にしていったということでしょうか?服部 おそらく、その通りだと思います。これは個人的に思っていることなんですが、『THE ORIGIN』という作品は、シャアが絶対的な軸として存在している。しかし『ククルス・ドアンの島』は、ドアンがタイトルロールになっていますが、主軸にドアンがいるのかというと、それはまたちょっと違うなと思ったんです。
安彦さんからは「ドアンの持っている、彼独特の生き様を表すものが欲しい」という話があったんですが、本編中にその生き様が垣間見えるところがあまり無いですし……アムロとドアンの話でもあり、ドアンと子供たちの話でもあるわけです。例えばドアンが夜遅く仕事をしているところにカーラがお茶を持ってくるシーン、あそこはドアンではなく、カーラがほのかに抱くドアンへの恋心というか、それに近い心情に軸足を置いているので、そういう曲が欲しいと思ってしまう。
――音楽はカーラの気持ちに寄り添うわけですね。服部 そういうことです。そういった話をしながら1曲ずつ打ち合わせをしていった結果、こうした音楽構成になっていたという感じです。
――ドアンは「主役」というよりもアムロと世界、そして子供たちを結び付けて変化させていく「触媒」なのでは、とも感じられました。服部 そうなんですよ。自分でも、話をしながらだんだんそういうことがわかってきた感じですね(笑)
――今回、曲数が多かったように思えましたが、各キャラクターのその時々の心情に重きを置くからこその結果だったのですね。服部 そうですね。他にもアムロが何度もガンダムを探しに行く場面、その時の彼の心の葛藤や必死さに自分はグッときたので、そういう部分を音楽でしっかりとクローズアップしていきたかったところがありますね。
――安彦監督が特に音楽にこだわった場面はありましたか。服部 安彦さんが大事にしていたポイントは、ガンダムを探すアムロ、自分で戦いたいという思いをドアンに告げたいマルコス、秘密工作に勤しむドアンが地下施設で一堂に会するシーンですね。「それぞれ同じ場所に立ちながら意見の違う話をする流れの中に、カタルシスを作りたい」という話をされて、そうした曲にしてほしいとかなり強く言われました。
なので、それぞれが出かけるところで小さな音の刻みを入れておいて、それがどんどん拡大していくような流れの曲になっているんです。あの場面でしかかからない曲ですが、改めて自分の中で振り返っても印象的なシーンに仕上がりましたね。
(後編に続く)
>>>『ククルス・ドアンの島』安彦良和が大切に描いたドアンと子供たちの場面を見る(写真11点)(C)創通・サンライズ