• 『ククルス・ドアンの島』MSの3D描写は重量感・スピードにこだわり
  • 『ククルス・ドアンの島』MSの3D描写は重量感・スピードにこだわり
2022.06.24

『ククルス・ドアンの島』MSの3D描写は重量感・スピードにこだわり

(C)創通・サンライズ)

現在公開中の安彦良和監督作『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』は、ガンダムシリーズの原点であるテレビアニメ『機動戦士ガンダム』、そのシリーズ中でも異彩を放つ第15話『ククルス・ドアンの島』を完全映画化。『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙』の劇場公開から40年の時を経てRX-78-02 ガンダムとアムロ、そしてお馴染みのホワイトベースの仲間たちが登場する物語が展開されていく。

本作ではモビルスーツの活躍シーンをはじめ、多くのCGを用いた映像表現が取り入れられている。その中心人物として関わったのが、3D演出を担う森田修平だ。『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』にも参加したアニメーションスタジオ「YAMATOWORKS」の代表取締役であり、監督としてさまざまな作品を手掛けてきた森田さんのインタビュー後編は安彦監督が描くガンダムをCGで再現する苦労、また本作にこめたこだわりの演出についてお話を伺った(全2回)。

――安彦監督の描くモビルスーツを3DCGで再現するのは難しかったですか?

森田 そうですね。安彦さんがサラサラッと描かれるモビルスーツは「筋肉」があるように見えるんですよね。我々はそれをCGモデルとして置くだけでなく、アニメーションで動かすことを考えなければいけないわけです。楽しく作ってはいましたが、そこは苦戦しつつやっていた感じではあります。

実際には、3Dモデルにポーズを取らせるときに、3Dモデルを変形させたりと、色々な工夫をアニメーターがしています。それを3Dレイアウトチェック時に、副監督のイム ガヒさんと総作画監督の田村篤さん、僕とでチェックして演技の修正をしていきます。

――例えば、ガンダムに関してはどういう修正を入れていくんですか。

森田 ガンダムは顔がすごく難しいんですよ。目の位置ひとつで表情が変わってしまって。下手すると怖い顔になったりするんです。だから、カットごとに庇の角度を調整して、右目を大きく、左目を小さくするなどバランスを調整しています。
さらに、データを出力した紙に安彦監督や総作画監督の田村篤さんが修正を入れてくれました。「安彦さんのガンダムの場合、ここのラインが絞られる」といった作画的な指示を受けて、それに従ってCGを修正していきました。

――田村さんのこだわりも反映されているわけですね。

森田 チェックに関しては全て参加してくれました。田村さんが見事にポイントを突いた指示を入れてくれたおかげで、ガンダムがより良い形に仕上がったと思います。

――本作での森田さんの演出面でのこだわりはどんなところにありますか。

森田 そうですね、ザクとガンダムが押し合いをする時には「押されたガンダムは一気に押し返してはダメ。まず1回耐えてから押し返す」という指示は出しました

――確かに一瞬溜めることで、力強さや躍動感はかなり違ってきますね。

森田 あと、ラスト近くでガンダムがドアンのザクを投げるシーン、あそこもちょっとこだわりを出したところですね。本当の重さからすれば、ガンダムなら軽く持ち上げられるのかもしれないんですけれど、アムロやドアン、子どもたちのいろんな思いがあのザクには詰まっているから、あっさり持ち上げてはダメだと思ったんです。
それを踏まえて、投げるポーズが決まるところも含めて、持ち上げるという動きにこだわりましたし、動画をチェックしながら、「(ザクを)もっと重く見せて」と伝えました。

――ザクといえば、サザンクロス隊の高機動型ザクの移動表現は大きな見どころですね。

森田 高機動型ザクの見せ方に関しては、安彦さんから「スケートの動きなんだよね」と言われたんです。この先にドムが登場するという前提があるので、差別化したスケートのような動きでという話もあったようにも思います。このオーダーには悩みましたね。スケートの動きってどうしても軽く見えちゃうので、かなり工夫したことでザクの重量感を残しながらスピード感が出せたかなと思います。

このスケートの描写が上手くいったのは、CGアニメーターと作画によるエフェクトを描いてくれた方のおかげです。それこそ、アニメーターの方には曲がる時だけスラスターの装甲がブワッと上がるみたいな、結構細かい描写を加えていただいて。よく見てもらうとそうしたメカっぽい動きもわかると思います。加えて煙をエフェクト作画で描いてもらったおかげで、モビルスーツがよりカッコ良く見えて、重さもグンと引き立ちました。全カットが繋がったラッシュを見た安彦さんから「スケート、良かったよ」と言ってもらえて本当に嬉しかったですね。

――本編を観ていると、MSの動きのタイミングなどがまるで当時の『機動戦士ガンダム』を思い出すような雰囲気がありましたが、その辺りはいかがですか。

森田 実はそこに関してはあまり意識していなかったです。でも、そういうタイミングをコントロールするのがまさに演出の仕事であり、「ここでスローにしよう」「ここで溜めよう」と考えた時は、数人のガンダム好きのスタッフの意見を聞いて修正していく部分はありました。もしかしたら、そうしたやり取りを経てスタッフみんなの中にある「ガンダム」を反映して作り上げた結果が、当時を思い出すムードにつながったのかもしれませんね。

――安彦監督と一緒にお仕事をしてみた印象はいかがですか?

森田 お人柄は本当に優しい方ですが、ご自身の中には厳しい目を持っていられて、修正の際にはしっかりと意見されている感じがありましたね。そして、安彦さんの絵を見るとその凄さは理解できるので、結果的には「ついて行きます!」となってしまう。

――仕上がった映像をご覧になられた感想はいかがでしたか?

森田 作業全体としては安彦さんが最初に言われた「モビルスーツを “ヒーロー” にしてほしい」という言葉や、作品の地に足が着いた感じ、目線の人間臭さなど、作品の最終的な方向性が目指しやすかったのですが、出来上がった作品全体を観た後、改めてその目指したビジョンをジワジワと感じられたという印象があります。
あと、やはり音楽を始めとした「音」が付くことで、何倍も良くなったように感じました。僕も監督をやっているのでわかるんですが、本当にみんながこだわって作っていたものが花開く瞬間って、音が付いた瞬間なんですよね。

いろんな要素から「安彦さんの作品」と感じられることができる1作になったと思います。具体的にどの部分がというのをうまく言葉にできないのですが……僕自身は参加してとても楽しかったですし、ぜひ皆さんにもその感覚を観て味わってほしいなと思います。

>>>ガンダムが、ザクが駆ける!斬る!『ククルス・ドアンの島』MS激突場面を見る(写真14点) 

(C)創通・サンライズ

アニメージュプラス編集部

RECOMMENDEDおすすめの記事

RELATED関連する記事

RANKING

人気記事