• 『ククルス・ドアンの島』総作画監督に求められたガンダムファンの目線
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2022.06.23

『ククルス・ドアンの島』総作画監督に求められたガンダムファンの目線

(C)創通・サンライズ


――さらに今作で田村さんは、新人の原画スタッフを指導する役割も務めていらしたというお話も伺いました。

田村 元々僕は、新海誠さんのスタジオの新人スタッフの面倒を見ることになっていたんです。今回はいい機会なので、その子たちに『ククルス・ドアンの島』で勉強してもらったという形になりました。
現場に慣れてくるとどうしても手の抜き方を覚えていくんですが、まだそれを知らない荒削りだけど一生懸命描いている新人の原画、僕は好きなんです。特に今作はたくさんの子供たちが生き生きと暮らす様子が描かれるので、そこでがむしゃらなパワーを直さず、そのまま活かすことができないか……そんなことを考えながら取り組んでいました。

そこは安彦さんもよく判っていて、そういう絵が手元に来ると喜んでくれるんですよ。キャラが似ている、似ていないという段階ではなく、キャラクターの気持ちをすごく考えて一生懸命描いたものはちゃんと通してくれて、そのまま画面になっています。彼らが今しか描けないものを、作品のエネルギーとして入れ込めたのは良かったかなと思います。

――今回の経験を元に自分の持ち味を理解すれば、その後には作画する上で武器になる可能性もありますね。

田村 そうですね、そういう意味でも『ククルス・ドアンの島』は絵柄的にはガチガチでなく、多少フワっとしているところがあるので、新人が描く緩さみたいなものが入れやすいモチーフであったから、今回のような取り組みができたと思います。実際、完成映像の大きなパワーになっていると思います。この経験を基にして、これから彼らに伸びていってもらいたいと思っています。

――演出面を任されていた副監督のイム ガヒさんとの共同作業になったと思われますが、その中で印象に残っていることはありますか。

田村 具体的なカット内容に関してのやり取りは、かなり頻繁にしていました。イムさんは子供たちの賑やかな食事の場面、またサザンクロス隊が初登場する市街地での戦闘シーンなどのコンテを担当されているんですが、子供たちの心遣いが伝わるドラマや、ダイナミックなロボットアニメの戦闘シーンも演出できて、本当に素晴らしいなと思いましたね。

――作画側からイムさんの演出に対して、「こうしたらどうか」という提案などもされたことはあったのでしょうか。

田村 僕の役割は「古いガンダムファン」としての目線だと思ってキャラクター……特にホワイトベースのクルーたちに関して、「こういうお芝居をした方が彼らしさが出るかもしれない」みたいな細かいアドバイスは何度かしたことがありますね。

――リアルタイム世代と後追い世代の間にある作品解釈の違いを調整する、みたいな感じでしょうか。

田村 そうですね、あと「昔はどうなっていたのか」みたいな質問は受けました。例えば「モビルスーツのコックピット内で、パイロット同士が通信をする際にはどこのモニターを見ているのか」「ガンダムってどうやって操縦するんですか?」みたいなことを聞かれて「それは、誰も知らないですよ」って伝えたら「ええっ、決まってないんですか?」ってすごく驚いていました(笑)。

――そういう意味でも、スタッフは『THE ORIGIN』に比べて全体的に若返った感じがありますね。

田村 そういう部分が、イムさんの持ち味として作品に良い刺激を与えてくれていると思います。エンドクレジットで安彦さんが描いたフワっとした色調のイラストが使われているんですが、あれはイムさんの発案でした。イムさんは最初から「バトルシーンだけで惹くのではなく、ある種の感動を見つけながら観られる雰囲気に」「カップルがデートムービーで観られるガンダムにしたい」と言っていたんですよ。僕らだけだと、おそらくそういう発想は出なかったと思います。
(後編に続く)

>>>安彦キャラとMSアクションに痺れる!『ククルス・ドアンの島』名場面を見る(写真8点)

(C)創通・サンライズ

アニメージュプラス編集部

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