――今回は副監督という肩書ですが、どのような仕事の内容だったのでしょうか?イム 安彦さんの代理、というのもおこがましいんですが、そういう形で関わらせていただいています。お話をいただいた際に、いわゆる演出だけでなく、それ以外のことも総合的にやってほしいということだったんです。どんなポジションでクレジットするか話をする中で、最終的に「副監督」で落ち着いたという感じですね。
――安彦さんが直接チェックできない部分をスタジオ内でサポートしていたという感じでしょうか?イム そうです。例えば日々の作業の中で複数提案されたロゴデザインの絞り込み、ちょっとした色味の確認、音楽メニューのチェックといった細々とした案件が発生するんです。そういった、わざわざ安彦さんのところまで持って行かない案件を、「多分、安彦さんはこう思うだろう」と汲んで判断するのが私の役目でした。もしそれが間違っていたら、私が悪いということで(笑)。それが、「副監督」というポジションに含まれているニュアンスです。
――演出に関しても全般的に関わっていると思いますが、演出の方向性についてはどのように考えられていましたか?イム 私がスタッフとして合流した時には、すでにシナリオは出来上がっていたんです。内容を読ませていただいて、私自身は「アムロをちゃんとした15歳の少年として描いてあげたいな」という気持ちになりました。
アムロは、ホワイトベースの中では「本当は嫌なのにガンダムに乗せられる」というような感じでいつも苦労していますよね。でも、この島ではちゃんと15歳の少年として扱ってもらって、本来あるべき普通の生活を取り戻してほしくて。特にドアンと一緒にいる時は、大人と十代の男の子の関係をきちんと描くことで、アムロの肩の荷を降ろしててあげたい気持ちがありました。
――アムロにリアルな少年性を持たせることにこだわったわけですね。イム パイロットスーツは途中で脱いでいるし、ジオンの帽子を被ったりもしている。自分を知らない人しかいない環境だからこそ、アムロも普通の少年にちょっとだけ戻るんじゃないかな、と。
ただ、その表現が結構難しくて……もっと自由な感じでアムロを描いてもいいかと思う一方、そうなると古谷徹さんが「自分の知っているアムロではない」となり、演じることに悩んでしまうかもしれない。なので、そのバランスは結構気を遣いました。
――アムロとドアンの間には疑似的な親子関係も見受けられます。大人にきちんと指導されていないアムロにとって、貴重な体験にもなっているのではと思います。イム アムロのことを心配してくれる、ちゃんとした大人がここにいるよ、ということですね。ドアンにしてみても、殺すつもりでガンダムのコックピットを開いたら、相手が子供だったことで衝撃を受けるわけです。そんな出会いをした敵同士が、徐々に人間対人間の関係になっていく変化を描きたいという気持ちがありましたね。
(後編に続く)
>>>15歳の素顔のアムロに出会える!『ククルス・ドアンの島』名場面を見る(写真9点)(C)創通・サンライズ