• 富野由悠季が80歳を迎え「時代の代弁者」として伝えていきたいこと
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2022.05.26

富野由悠季が80歳を迎え「時代の代弁者」として伝えていきたいこと

富野由悠季監督 撮影/真下裕

演出家デビューとなった『鉄腕アトム』から『機動戦士ガンダム』『伝説巨神イデオン』ほか数多くの名作を経て現在まで、富野由悠季監督のキャリア55年の歩みを俯瞰する初の本格的な展覧会『富野由悠季の世界』は、延べ2年に渡り全国8カ所で開催され、アニメファンのみならず、衆目を集めた。

また富野監督は昨年11月、令和3年度文化功労者に選出された。「物事の本質をつく視点で壮大な世界観をもつ作品を創造し、我が国のアニメーション界に新たな表現を切り拓いてきたものであり、アニメーションを文化として発展させた功績は極めて顕著」という選出理由からも、改めてこれまでの仕事がもたらしたものであることは間違いない。

そして富野監督は、今なおアニメの最前線で活動中だ。劇場版『Gのレコンギスタ』のクライマックスとなる2部作、IV『激闘に叫ぶ愛』とV『死線を越えて』が7月・8月に連続公開決定、現在その作業に追われている。
自身のキャリアと向かい合う時間を経た富野監督が、今後いかなる方向を目指していくのかに迫るロングインタビュー、後編は自身が文化功労者に選出された意味と、それを踏まえて今後どんな意識を持ち、何を成すべきと考えているかを語っていただいた。(全2回)

――監督が考える、文化功労者に選ばれた理由とはいったい何でしょうか。

富野 2年前にも文化庁長官賞を貰ったんですが、その授賞式の時に会った文科省の職員のほとんどがガンダム世代なんですよ。年齢的にドンピシャです。「ああ、この人達が選んでくれたから、自分は文化庁長官賞をいただけたんだな」って思いました。その2年後に文化功労賞を貰えたっていうことは、おそらく同じ人たちが選出してるっていうことなんです。実際会ってみたらガンダムファンの熱気があったんで、腰を抜かしたものです。

――なるほど、富野監督の功績をキチンと理解した世代が次に文化功労者に選んだ。

富野 そう、そこで「なるほどね」って思ったと同時に「これは断れないな」とも思った。だって日本の官僚の中に『ガンダム』がこういうタイプの人を滑り込ませちゃったということであると同時に、アニメファンとは違う目線で富野の仕事についての価値を認めている方々がいるということなんです。だから「そうか、俺はこれらの人に対して責任を感じないといけないのか」と思ったのです。
それを受けて、彼らは僕に何を要求しているのかっていうことを、1カ月くらい本当に考えました。そこで、ひょっとしたら傲慢かも知れない考え方が浮かんだわけです。

――それはどういうことですか。

富野 純然たる中央官僚っていうのは、その時代に決められていることをキチンとやることが仕事で、自分の意見が言えない人たちなんです。だからこそ「自分たちの代わりに、お前が本音で言いたいことを言え」つまり、時代の代弁者として喋る気配がある富野が名指しされたと感じたわけです。
だから本当に困りました。さっきも話したとおりで、僕にはそれだけの学識もないし、そういう風にきちんと話ができる能力もないアニメ屋だからです。

――しかし、いわゆるジャンルアニメと言われてる作品を芸能として国を認めさせた実績があるわけですよね。

富野 もちろんそれはあります。それは良かったと思うし、今回僕が貰えたことで、僕の世代に近い人達はかなり喜んでいます。「富野が貰えるのなら、俺も貰えるかもしれない」って(笑)。だけど、僕の場合は、今言ったように素直には喜べないし、正直困ってる部分があります。
でも、それは同時に個人的にとてもありがたいことでもあるわけです。そういう目標が設定されることで――すごく簡単に言います、勉強するしかなくなっちゃったんです。

――勉強、ですか?

富野 はい。正直この半年くらい、以前より本を読んでいますからね。それも今まで絶対に読むもんかとか思っていた直木賞受賞作みたいなものまで読む。あと、さっき言ったように「誰が観るものか!」なんて思っていたアニメも観るしかないんだよね。
でも、やっぱりそれはありがたいことなんだよね。こういう声をかけられたのは、やはり僕のことが忘れられていないからなんだろうし、その部分に関しては、斜に構えて済ませないでいきたいですし、後先考えずに億劫がらずに物を作るっていうことをやるしかない。
ものすごく当たり前の結論とか言葉遣いしかできないんだけど、そういうものなんだろうって思いますね。

――現在作業中の劇場版『Gのレコンギスタ』も、そのような姿勢で作られているわけですね。

富野 これはまさに悦に入っていることなんだけれど、『G-レコ』が提示してる問題っていうのは、今後20~30年保つんです。だから、今ドタバタしなくていいんだって思ってます。
今『鬼滅の刃』に負けようが関係ないし、30年後にはひょっとしたら『エヴァ』にだって勝つかもしれないなっていうくらいには自惚れています。
ですから、そういう意味では『G-レコ』はこれ以後ファンになってくれた人、全く知らない人、何とか映画版5部までできあがったら観ていただきたいなって思っております。

アニメージュプラス編集部

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