• 水島精二の仕事を支える「頼れるデジタルツール」
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2022.03.31

水島精二の仕事を支える「頼れるデジタルツール」

ウエスタンデジタル製品を愛用している水島精二監督 撮影:福岡諒嗣

デジタル環境の発展により、アニメーションの制作状況は大きな変化を遂げている。液晶タブレットを使っての作画、パソコン上での撮影など、現在の作品制作作業時に必要な素材はデジタルデータで扱われることが増えてきた。
その作業を進めていく上で、各作品のデータバックアップ、機密保持、それぞれの素材の整理整頓などは大事な要素となっている。

そんな現場を支える大切な役目を担うツールのひとつが、デジタルデータを保存するストレージと呼ばれる記憶装置。重い動画をたくさん収められる大容量、邪魔にならない携帯性、誰でも簡単に扱える操作性、しっかりとデータを守る安全性などの観点から、ウエスタンデジタルの製品を実際に現場で使用している水島精二監督にお話をうかがった。

――水島監督は数々の人気作を次々と手掛けておられますが、体感的にいつ頃からデジタル環境が仕事に貢献し始めたと感じられましたか。

水島 僕は割と早い時期から仕事にデジタルを導入していたんです。アニメがまだフィルムで制作されている頃、『新世紀エヴァンゲリオン』で演出を務めた時、GAINAXのスタジオにDTP用のMacが沢山あって、それを使ってセルにデジタル処理を施したりしていて、僕の演出した9話では写真のフレームをのせたり、セルの質感を荒らすような加工をしたりと、特殊な使い方をしていて、それを見て面白いなと思ったので自分もパソコンを買ったんです。当時高価なものでしたから「これは絶対に仕事に活かさねば」という気持ちもあって頑張って使いました(笑)。

――具体的には、どういった作業を?

水島 ある作品を演出した時、1話18万のギャラなのに当時出たばかりの12万する写真クオリティの出力ができるプリンターを買って、フォトショップを使って背景素材を作り、それを出力して、勝手に独自の撮影素材として使ってみたりしました(笑)。

――投資が大きすぎて、完全に赤字じゃないですか(笑)。

水島 単純に新しい技術を導入するのが大好きなんですよ。さらにその後、現場がデジタルへと移行していった時にはMacを何台も買い替えて、『シャーマンキング』のOP編集なんかも撮影部から素材をもらって、自分で仮編集してイメージを作ってみたりしましたし。
▲水島監督が手がけた数々の人気作は、時代を越えてアニメファンの心を捉え続ける。

――では「現場にデジタルが浸透してきたな」という印象はどの辺りから感じられましたか。

水島 一番は美術ですかね。最初は紙に描いた背景をスキャニングしたデータを納品するのが主流だったのですが、今は全てデジタルが主流になっていて、さらに3Dモデルを組み合わせて使用する現場もあり、クオリティーと効率UPに繋がっていると思います。

あと、撮影もデジタル化は早くて『地球防衛企業ダイ・ガード』(1999~2000)の時にはデジタルでやっていました。撮影の一部のチームが「特効もデジタルでできる」と営業してきたのでお願いしてみたのですが、出来は酷くてリテイクだらけという結果になってしまって。
要はデジタルツールの性能としては簡単にできるんですが、デジタル現場がその技術を活用できるスキルを持っていなかったわけです。そういうゴタゴタもデジタル化の当初は結構ありました。

――そういった流れで各セクションのデジタル化が進んでいったわけですが、水島監督のキャリアの中で劇場アニメ『楽園追放-Expelled from Paradise-』(2016)は、デジタルとの取り組みの中でも挑戦的な作品だったのではないですか。

水島 そうですね。それまでも3Dは自分の2D作品の中の一部で扱っていましたが、いわゆる3Dアニメ、登場するほとんどが3Dモデル、一部作画で演出方法は3D/2Dのハイブリッドといった制作の仕方は初めてでした。まだその頃の3Dアニメは表情も硬くて、「不気味の谷※を越えられない」と言われていたり、課題も多くて、それらを突破するために僕や京田知己さんが制作会社のグラフィニカさんにほぼ毎日通って3Dアニメーターとコミュニケーションをとって制作を進めました。

※不気味の谷:ロボット・人形などの人工物の造形を人間の姿に近づけていくと急激に強い違和感や嫌悪感が引き起こされる心理現象。

――そのかいがあって、2Dキャラの魅力が見事に3DCGアニメのフォーマットに落とし込まれていましたね。

水島 ビジュアルでいえばモデリングの精度や、セルルックの貼り込み用のテクスチャー素材の作り方だとかはモデラーに相当工夫してもらいました。あと、3Dの現場は絵を止めるのを怖がっていたんですが、アニメ作画の利点――動きの溜めや詰めを理解してもらったり、2Dのアニメーターの絵作りのセンスを身につけてもらえるよう指示をしていきました。

アニメージュプラス編集部