• 2021年の劇場アニメが良作ぞろいだった理由【藤津亮太スペシャル対談】
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2021.12.30

2021年の劇場アニメが良作ぞろいだった理由【藤津亮太スペシャル対談】

藤津さんが今年の収穫に選んだ1作『サイダーのように言葉が湧き上がる』(C)2020 フライングドッグ/サイダーのように言葉が湧き上がる製作委員会

2021年もあとわずか。数多くのアニメ作品が放送・上映・配信された。そこにはどんな注目作があったのか、またアニメ界の今後を占うどんな動きがあったのか――アニメ評論家・藤津亮太とアニメージュプラス編集長・治郎丸が1年のアニメシーンを振りかえり、2022年への期待を語った対談を全3回で掲載する。
第1回は、なぜ今年の劇場アニメ作品が良作ぞろいだったか、その理由と各作品の魅力に迫った。
▲(左から)藤津亮太さん、アニメージュプラス編集長・治郎丸。

編集長 2021年のアニメシーンを振り返るにあたり、藤津さんからいくつかキーワードを戴いています。まず「長編の豊作」。これは劇場アニメということですか。

藤津 はい、もうその言葉に尽きちゃう感じですね。

編集長 確かにバラエティに富んだ力作が連続して公開された印象がありますよね。

藤津 ちょっと大きな話をすると、2012年が劇場アニメの大きな分水嶺だったと思うんです。なぜかというと、その年の劇場興行成績がスタジオジブリ作品なしで400億円超えを達成したということ。この年って『ONE PIECE FILM Z』と『おおかみこどもの雨と雪』の公開年で、要はジブリ以外でも50億円とかを超えるヒットが出たということ。続いて2016年の『君の名は。』のヒットがあって、こういう経緯の積み重ねでアニメ映画の興行成績のレベルが一段上がったような気がします。

さらに辿っていくと、2012年のヒットに繋がる萌芽が2009年に確認できるんですね。まず『サマーウォーズ』で細田守というクリエイターへの注目が高まった。そして『ONE PIECE FILM STRONG WORLD』の大ヒット。これは定番化していたシリーズを原作から導線を引き直したことで新たな路線を確立しまして、『ドラゴンボール』の劇場版などに繋がっていきます。そういう意味では、劇場版『名探偵コナン』も2009年に再び30億円台に戻り、2014年ごろになるとさらに成績を伸ばし、人気シリーズとして定着していますよね。

これは余談ですが、劇場版『名探偵コナン』シリーズの大ヒットは『君の名は。』のヒット……新海誠監督作品の一般層へのリーチに繋がったと考えているんです。

編集長 それは、どういうところから?

藤津 『名探偵コナン 純黒の悪夢』に『君の名は。』の予告をつけたら、ウェブの予告動画の再生回数がすごく上がったそうなんです。おそらく『コナン』を観に来た、コアなファンではない中高生たちが「これ、何だろう?」と調べたんじゃないかと。
さらに、その頃から30~40代のクリエイターがどんどん映画を作れるようになる流れも出来上がってきて、そういった積み上げが最終的に2021年の劇場作品のバラエティ感に繋がったんじゃないでしょうか。またそこに『シン・エヴァンゲリオン劇場版』『竜とそばかすの姫』の大ヒットも加わりましたしね。

編集長 ちなみに、藤津さん自身が今年特に注目した作品は?

藤津 これがありすぎて困っちゃうんです。あえて言うなら6月前後に公開された『漁港の肉子ちゃん』と『映画大好きポンポさん』、それから『サイダーのように言葉が湧き上がる』ですね。この3本は独立したアニメーション映画でスタイルもバラバラ、なのにどれもちゃんと面白い。

編集長 6月はちょうど緊急事態宣言の関係で、公開のタイミングとしてはなかなか大変な時期でしたよね。

藤津 そう、なので興行的にはなかなか苦戦を強いられましたね。特に『サイダー』は本来なら去年の5月に公開する予定が延期を重ねてしまったんですが、当初の予定で公開されていたら作品の印象はかなり変わっていたと思います。

編集長 作品の持つシティポップ感、ですよね。

藤津 そうそう。逆に時代に合ったと言えなくもないんですけれども、ここまでブームが浸透していなかった去年なら、かなり尖った印象で受けとめられたのではないかと。

編集長 昨年から劇場作品はコロナ禍の様々な影響を受けていましたよね。同じ6月の『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』もギリギリまで変更を重ねてやっと公開された印象がありますから。

アニメージュプラス編集部

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