• 神山健治は草薙素子が好きなのか!?『攻殻機動隊 SAC_2045 持続可能戦争』
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2021.11.12

神山健治は草薙素子が好きなのか!?『攻殻機動隊 SAC_2045 持続可能戦争』

(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会


◎草薙素子がナンバーワン◎

ーーそれだけ強度のある世界観を支えているもの、さまざまなアプローチを「攻殻機動隊」という作品として成り立たせるものが、やはりキャラクターだと思うのですが。

神山 はい。

——神山監督にはいつもストーリーやテーマのお話をうかがうことが多いですが、今回は「攻殻機動隊」のキャラクターのお話を聞いてみたいと思います。草薙素子をはじめとしたキャラクターたちを、神山監督はどんな風に捉えていらっしゃるのでしょうか。

神山 キャラクターをどんな風に捉えているか、か……なるほど。「個人対社会」という図式で作品を作る時に、その「個人」の部分を誰で語るかということになりますよね。それがゲストキャラの場合ももちろんあるのですが、なるべくは公安9課のメンバーで描いていきたいとは思っているんですよ。そして、公安9課にはいろいろなバリエーションのキャラが、最初からいます。もちろんキャラクターの解釈はファンそれぞれで違うだろうし、そもそも原作にしろ、押井版にしろ、解釈は違うけれど、でも、とにかくバリエーションは豊富です。いちばん希有な存在である素子を中心に、人間代表みたいなトグサとか、電脳世界に素直にコミットしているバトーとか。あとは、荒巻というキャラクターが僕の中ではすごくおもしろかったんです。曲者揃いの公安9課を束ねているリーダーで、しかも政治にもコミットできるし、いちばんミニマムな事件にもコミットできる。そんな振り幅の大きい荒巻というキャラクターは、僕にとってものすごく興味深いし、描いておもしろかったので、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』の初期には荒巻を中心にしたエピソードを作ったりしました。
 さらに素子は、多分この世界でもっとも独特な、個人的な事情も持っているキャラクター。電脳世界にもっとも特化した人間なのだろうし、(世界観の)設定を語る上でもいちばん重宝する。そして、いちばん人間から遠くにいる人なので、逆に人間というものを掘り下げて描いていこうと思った時に、対比として魅力的に描ける。
 そのほかにも、僕が作品として描いてみたいと思うテーマを、どれだけ乗せても崩れないキャラクターが、原作に最初からたくさん存在している。そこが「攻殻機動隊」のおもしろさなのかな、と。僕はキャラクターをそういう風に捉えているので、ある種、押井さんが描くようなフェティッシュなやり方とは反対側からトンネルを掘っているというか(笑)。でもやはり、掘り下げていくごとにそのキャラクターがすごく好きになっていくし、僕なりにそのキャラクターたちのフェティッシュも入れているつもりもあって。何だろう……どういう風に捉えているかと上手く言えないけれど、ひとことで表現しろと言われるならばーー公安9課の連中がものすごく好きなんですよ。何ておもしろくて魅力的な奴らなんだろうと、捉えていますね。

ーー確かに、公安9課のメンバーが動き出すとワクワクするし、背景にある複雑なテーマも徐々に伝わってきつつ、とりあえずは目の前で展開する物語に引き込まれていくという感覚になります。

神山 メインキャラクターって、シリーズが続けば続くほどお飾りになっていってね。ゲストキャラにテーマが背負わされて、メインキャラはそこに関わるだけになっていくという面が、どうしてもあるんです。「攻殻機動隊」にも少なからずそういうところはあるけれど、それでもやはり、事件にコミットしたときにその人(公安9課のメンバー)がどういう心象を得たのかということは絶対に外さないで描いてほしいと、脚本の際には必ずお願いしています。事件そのものが彼らと直接は関係なかったとしても、それに対して彼ら、彼女らが何を考えたのかということが物語のオチになるように。

ーーたとえば「素子を描こう」という時には、「素子はこうでなければダメだ」といったキャラクター性を意識するのでしょうか。それとも自然とそうなっていく?

神山 自然とそうなる気がします。脚本を書くライターもあまり縛っているつもりはないんです。むしろ、僕自身では思いつきもしないような心象にたどりついてほしい、そういうものが見てみたい、という思いで。それでも、まあ、素子だったらこう考えるんじゃない? というポイントから外れることはほとんどない。しかも、それでワンパターンになってしまったらつまらないけれど、意外とそうでもない。使い古された言い方をすれば、「キャラクターが勝手に動いてくれる」ということ。公安9課のメンバーはみな、「何か動かないなぁ」ということにはならないんです。何らかの状況にポンと放り込むと、わりと勝手に動いてくれる。それだけ原作のキャラクターがよくできている、厚みがあるということかな。原作の解釈はいろいろわかれるところだし、僕が描いている素子たちを「原作と違う」と感じる人もいるとは思うけれど。でも基本的にはあの原作に描かれたものから発想していったものだし、シナプスがつながっていった先にあるものだとは思っています。

ーー公安9課のメンバーで、特に好きなのは?

神山 いちばんを選べと言われたら、それはやっぱり素子ですよね。いまだに、いろいろ想像が膨らむんですよ。素子は正体もわからないし、年齢も不詳だし……まさか20代とかのはずはないだろうという深みもあるし、でも、もし20代でここまでの人間ができあがったとしたら、逆にどんなものを見てきた人なんだろう? という想像もできる。あれだけ屈強な部下たちをアゴで使って、荒巻からも絶大な信頼を得ている。そんなキャラクターって、アニメでは希有な存在というか。昔はいたのかもしれないけれど、少なくとも最近のアニメでなかなかあんなキャラクターはいないので、僕にとってはいまだに素子がナンバーワンです。

ーー最後に、キャラクターといえば今回の『攻殻機動隊 SAC_2045』で神山監督は、『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』や『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』以来のオリジナルキャストにこだわったそうですね。やはり、キャストの声が一体になってのキャラクターという感覚があるということでしょうか。

神山 そうですね。もう、それこそ『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』のいちばん最初の頃から、脚本は当て書きというか。脳内では押井さんの映画版(『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』)のキャストのみなさんの声を、ある程度イメージして書いていたので。今回も、企画がスタートしたばかりの具体的には何も決まっていない段階で、田中敦子さんと大塚明夫さんに何かでお会いした時に、「お願いします」という話をしたような記憶があります。とにかく、キャストだけはあのメンバーにお願いしたいなという点には、確かにこだわりました。

ーーあの声だからこそ生まれてくるものが、やはりある。

神山 あるんじゃないかな。ビジュアルも3DCGに変わっていったりしている中で、何に “ゴースト” が宿っているのかと言われたら、やはり「声」じゃないかな、という気はしますよね。

(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会

アニメージュプラス編集部

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