その物語同様に、『エルガイム』は様々な革命的な側面を備えた作品でもある。
まず特徴的なものは、世界観を支える主力兵器として使用される〈ヘビーメタル〉と呼ばれる人型ロボット兵器。ヘビーメタルは、かつての戦争のために製造・運用された兵器なのだが、劇中の時代には製造技術が失われて、原料すらも入手が困難な状況となってしまっている。
そのため、ヘビーメタルはその機体ごとの格付けがされている。戦時中のヘビーメタルは〈オリジナル〉、細部までオリジナルにこだわって制作されたレプリカで、それに準じた性能を持つ高級な機体を〈
A級〉、現在の技術で安価に製造・量産が可能な兵器として運用できるものが〈
B級〉、さらにシンプルなものが〈マシンナリィ〉と呼ばれ、区別された。
▲ダバ最初の愛機にしてヤーマン族の遺産ともいえるA級HMエルガイム。
▲ポセイダル最後の切り札となるオリジナルオージェをベースにしたA級HMオージ。
ヘビーメタルをはじめとした本作の主なメカデザインを担当したのは、当時
23歳の新鋭デザイナー・永野護。人体に近い動きが可能な内部骨格と、それを覆う特殊装甲を完全に独立させた〈ムーバルフレーム〉と呼ばれる駆動機構を取り入れるなど、斬新な発想とデザイン的な美しさを両立させた造型は勿論のこと、ミリタリー系の知識・ディテールも取り入れてそれまでに無いメカニックのリアリティを表現。設定を深堀りし、その解像度を上げたビジュアルセンスは、当時のアニメシーンに大きな衝撃を与えた。
さらに永野は、本作のキャラクターデザインも担当。メカとキャラ両方をいちデザイナーが手掛けるというのは、当時のサンライズ作品ではまさに画期的な出来事であった。ロックテイストを大胆に取り入れたシャープなラインでまとめられたデザインは、ヘビーメタルの独特な存在感と見事にマッチする線でまとめられており、のちの『ファイブスター物語』へと繋がる独自な世界観が提示されている。
本作で富野監督は、永野に限らず北爪宏幸、大森英敏ほか当時
20代のアニメーターたちをメインで起用。若手スタッフを積極的に取り入れた影響からか、これまでとは一味違う作風の作品として成立しているのも本作の魅力だろう。ここで培ったメカニック設定へのこだわりやキャラクター描写は、富野監督の次回作『機動戦士
Zガンダム』へと受け継がれており、長い目で見れば現在まで続くガンダムシリーズにも大きな影響を与えていると言えるだろう。
80年代ロボットアニメのターニングポイントとして重要な位置を示す『重戦機エルガイム』、その価値を確認できる今回の機会を見逃す手はないはずだ。
>>>『重戦機エルガイム』場面カットを見る(写真13枚)(
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