• 『不滅のあなたへ』の音響や劇伴の魅力【川島零士×高寺たけし対談】
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2021.08.10

『不滅のあなたへ』の音響や劇伴の魅力【川島零士×高寺たけし対談】

(C)⼤今良時・講談社/NHK・NEP


舞台が変わると環境音や反響音も変化

——そんなエピソードも、なんだかグーグーらしいですね(笑)。さて、続いては効果音や音響エフェクトについて教えてください。アニメージュ8月号のインタビューでむらた雅彦監督が今作の音響について、「旅する土地ごとに、特有の環境音を入れてもらい、音でも場所の違いを出しています」とおっしゃっていたのですが、具体的にはどんな工夫をされているんですか?

高寺 「特有の環境音」というと特別なことをしているようですけど、実際はそんなに特殊なことはやっていないんです。『不滅のあなたへ』は物語を大きく分けると、ニナンナとタクナハ、ジャナンダ島という3つの土地が舞台になっていますが、それぞれ、けっこう環境や状況が違うんですよね。ニナンナはすごく田舎の村で、家も木や藁を使った高床式住居ですが、タクナハ編になると石造りの多層階建ての建物が出てきます。そして、ジャナンダ島になると今度は地下や洞窟が多く登場する。だから、それぞれ異なる状況に合わせて、環境音やしゃべったときの反響音を変えているんですよ。たとえば、木の家の中でしゃべってもあまり声は反響しませんけど、石造りだとちょっと反響しますし、洞窟だともっと反響しますよね。そういう調整を、舞台ごと、シーンごとに細かくやっているという感じです。

——それぞれの舞台に合わせた音作りをされているというわけですね。

高寺 難しいのは、全編を通して電気的なものが出てこないことですね。ジャナンダ島だとニナンナよりは文明が進んでいますけど、あくまで現代ではないので、スピーカーや拡声器みたいなものは出てきません。拡声器を使えたら距離の表現も楽なんですが、それはできませんから、遠くにいる人に話しかけているセリフでは、演者さんにも芝居で距離を意識してもらっています。それプラス、距離や反響具合を細かく調整しないといけませんでした。SFではなくあくまでリアルな世界なので、材質や距離を考えて、音もリアルに作っていく。すごく地味な作業ではあるんですが、結果としてそれが作品の一つの厚みになればいいなと思っています。

川島 舞台がどんどん変わっていくこの作品でそれをやるのって、すごく大変そうですね……! むらた監督も8月号のインタビューで、「キャラクター、各種設定、背景美術、色彩設計などが通常作品の2~3倍の作業量」だったとおっしゃっていました。

高寺 言ってしまうと、それぞれ別の作品を3タイトル作っているようなものなんですよね。各編だいたい6話前後しかないはずなんですが、毎回、編が終わるごとに「やっと1クール終わった!」みたいな気分になっていました(笑)。それくらい、どのエピソードもものすごく濃密でした。

——劇伴もまた、物語の舞台が変わるごとに雰囲気が変わっていますよね。『不滅のあなたへ』の劇伴の特徴も教えてください。

高寺 当初、(原作者の)大今良時先生にヒアリングする機会がありまして。ジャンルに関しては特にオーダーはなかったんですが、「曲として、サントラとして、いい曲にしてほしい」とおっしゃっていました。劇伴ってバックグラウンドミュージックとも言うようにセリフのバックで流れるものなので、「セリフの邪魔にならない、なんとなく漂っているだけのBGM」というものも時としてあるんです。でも、大今先生は「なんとなく漂うのは嫌です」と。そこを一番強く言われていたと思いますね。なので、(音楽の)川﨑龍さんにも、一曲の中に起承転結の展開を盛り込んでもらい、一つの曲を2分~3分くらいの長さで作っていただきました。曲数としては全部で40曲くらいなので、2クール作品としてはそこまで多くはないんです。ただ、通常の劇伴は一曲1分半くらいなので、単純に長さが倍近くありますし、一曲の中に2~3曲分のエッセンスが入っているので、大変だっただろうと思います。すごく贅沢で豪華な曲を上げていただきました。

——一つの曲の中にもドラマがあるんですね。

高寺 そうなんですよ、メインテーマをバーンと置くだけじゃなくて、ちょっと悲しいメロが入ったり、盛り上がったあとに一回ブレイクが入り、静かなところからもう一回盛り上がって行ったり。いろんな要素が入っているんですが、一つの曲なんです。そのおかげで編集する際には、画を観ながら「ここのパートをこう使おう」といろいろと考えることができ、可能性がとても広がりました。フィルムスコアリング(映像に合わせて音楽を作曲する手法)ではないのですが、それと同じくらい、映像にマッチする形で劇伴を使うことができ、とてもありがたかったです。たとえば、第1話で、少年がジョアンに話しかけていると鳴子が鳴り、少年が家の戸を開けるという一連のシーンで流れている曲は、別々の曲を組み合わせているのではなくて、あれで一曲なんですよ。鳴子が鳴るところで一瞬音が切れますが、そこも曲の中で入っていたブレイクを活かしています。ふっと音を止めることで、印象的に聴かせることができました。作品の雰囲気的にも曲をチマチマと小刻みに付けていく感じではないと思っていたので、全体の繋がりを保ちつつ、一曲の中でメリハリをつけて使うことができてよかったと思います。

(C)⼤今良時・講談社/NHK・NEP

アニメージュプラス編集部

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