押井 そういう意味では、イケメン風キャラを意識して作ったのは『スカイ・クロラ』が最後だよ。あの時は「これが最後の作品」と思っていたし、キャストも良かったからね。まあそういう公私に渡る理由で決めていったところはある。やりたいことをやるには、自分のフェティッシュを満たす必要があったから。美少女にだって特別興味があるわけではないけれど、それがないと企画が成立しない。
アニメーションという表現で描ける人間は結局美少女と美少年、おじさん、おばさんしかいないんだから。その中で誰を選ぶ? と聞かれたら、まあ美少女しかないんじゃないの、というね。今回の枠組みはそういう理由でしかない。自分の好みとしては血比呂先生が一番好きなんだけれどさ。
▲押井総監督の好みを一身に背負った女性キャラ・血比呂先生。――ですよね(笑)。押井 ネットにキービジュアルが出た時、「派手なおばさんが一番前に出てきているのが、さすがは押井だ」みたいなことを書かれていたんだけど……まあ、そのとおりで(一同爆笑)。血比呂先生に関しては最初から明確なイメージがあって、露出担当の暴力的なおばさん。(キャラクターデザインの)新垣(一成)君に説明したら、「要するに(『うる星やつら』の)サクラ先生?」って聞かれたので「そんな感じ、髪はショートの赤髪で」ってお願いした。
――ああ、そのままのキャラですね。押井 でしょう、一発で決まったから。でもヘビースモーカーの設定には「んんん?」となっていたけれどね。アニメーションでタバコの描写が嫌がられるのは二つ理由があって、まず作画が面倒、そしてアニメーターはタバコを吸う女性が嫌い。今の若い子はみんなそうだよね。でも、僕はヘビースモーカーのおばさんが大好きだから。
――ええ、そんなキャラ、山ほど見てきましたから。押井 ハハハハ、だから「いつもの監督のパターンですね?」「そのとおりだよ!」で終了。何の苦労もなかった。本作の影の主人公という感じになったけど、まあ動かしやすいからね。今までとちょっと違うのは「実は男で苦労してきた」という設定がシリーズ後半に出てくるんだけど、そこは(脚本の)山邑(圭)に任せた。だから、半分は山邑のキャラでもあるというね。
――女子高生たちはどうですか。
▲(左から)映画研究会会長・渡部マキ、ダンス部部長・雲天那美、コスプレ同好会会長・紺野カオル。
▲風紀委員長・墨田仁子。押井 ああ、あれは自分の知り合いをそのまま使った感じです。造型も本人から持ってきてるから、こちらも何の苦労もない。あの女の子たちのキャラクターデザインが今の主流にあるのかどうかは知らないけれど、ショートカットであれば基本OK。那美だけロングヘアなのはモデルがそうだから。
――あくまでもモデルに合わせる。押井 そう、(押井総監督が通う)空手道今野塾の古株で沖縄の人。空手部の4人も、道場のおっさんたち。これが不思議なものでね、脇はそれで大丈夫なんだけど、主役は自分の知り合いでやれた試しがない。
――それはどうして?押井 それをやっちゃうと私小説になっちゃうから。そんな『(新世紀)エヴァンゲリオン』みたいなことはしたくなかった(笑)。まず自分をさらけ出して作りたくない。他人の振りして自分が描けるっていうのが映画監督の最大の特権なんだよ。そういう意味で苦労したのは、やっぱり貢とマイだよね。最初に作ったキャラであるにもかかわらず、最後まで往生した。
▲押井総監督を悩ませた貢とマイ。(C)2020 押井守/いちごアニメーション