• マニアの方、期待を裏切りません! 『がんばれいわ!!ロボコン』 鈴村健一インタビュー
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2020.08.03

マニアの方、期待を裏切りません! 『がんばれいわ!!ロボコン』 鈴村健一インタビュー

(C)石森プロ・東映

7月31日(金)に全国公開された『がんばれいわ!!ロボコン ウララ〜!恋する汁なしタンタンメン‼の巻』。監督が石田秀範、脚本が浦沢義雄と聞いて、東映特撮ファンは期待が高まっている! では出演者で大の東映特撮ファンである鈴村健一さんに作品の見どころ、鈴村さん演じる “汁なしタンタンメン” についてうかがった。


間違いなく不条理であのテイストだぞ

――『がんばれいわ!!ロボコン』への出演はオーディションで決定したと、ラジオ番組「東映公認 鈴村健一・神谷浩史の仮面ラジレンジャー」でおっしゃっていましたね。「すごいオーディションテープができた」とのことでしたが、どんなパターンでどんなセリフをおっしゃっていたのでしょうか。

鈴村 まず、「ロボコンのオーディションです」と聞いた後に「汁なしタンタンメン役です」と言われて、“これは確実に浦沢さんのホンだな”と一瞬で気づきました。ならばきっと、とんでもなく不条理だろうと。間違いない、『ペットントン』第30話の「横浜チャーハン物語」と同じテイストだ、きっと! とその瞬間に感づいたので、それはそれは気合を入れてオーディションテープを録ったわけです。
オーディションはスタジオに行ってスタッフの方に直接聞いてもらうことが多いんです。テープオーディションの場合はマネージャーが立ち会って、事務所であーでもないこーでもないと言いながら録るんですが、外出自粛の時期だったこともあって、今回はひとりで録ったんです。自分の家で自分の録音環境でやったので、こだわって無限大に録れるんですよね。
原稿を見ると、汁なしタンタンメンが赤ちゃんからどんどん大人になるキャラクターだったんです。原稿からだけの判断でしたが、本当にメチャクチャなホンだろうと予想したので(笑)、僕もやれる限り、自分の限界にチャレンジしようと思いました。赤ちゃんの声を、絶対に自分ではやらないラインでやってみようと。神谷くんともよく言ってるんですが、ラジオなどで急に振られて変なキャラをやってほしいと言われたときに、その一瞬しかできないような声の出し方っていうのがあるんです。そういう一発芸芝居は普段スタジオではやらないのですが、それをやりました。

――普段はやれないことをやられたんですね。

鈴村 マネージャーが東映さんに送ってくれたのですが、後日マネージャーから「世の中が沈んでいて、自粛ムードの中元気が出ました。大爆笑しました」と感想をいただきました。マネージャーも「これは決まるんじゃないですかね。それくらいとてもいいと思います」って言ってくれたんです。そのときに、作ったかいがあったなと思いました。一発芸をやりまくったので、自己評価としては「本当にこれでいいんだろうか……」と思っていたんです。でもテープを聞いた周りの人が真顔で「本当によかったですよ、オーディションテープ」と言ってくれたので、あれでよかったんだとすごく舞い上がったのを覚えています。
役が決まったときも、制作チームの方々から「オーディションテープがとにかくよかった」とすごく褒めていただいて、勝手に天狗になっていました(笑)。
声優業界広しといえど、「汁なしタンタンメンです」と役名を言われたときに、「これは浦沢(義雄)さんのホンだ。間違いなく不条理であのテイストだぞ」ということが一瞬でわかるのは、僕か神谷くんか稲田徹さん、関智一さんだけな気がします。そういうバックボーンを持ったうえでオーディションを受けさせてもらえるという幸せと、「ここで本気を出さないでどうする!」 という気合の入り方。そのうえで決定した喜びというのは、ほかでは類を見ないほどです。
僕が子どもの頃から見ていた『ロボコン』シリーズだというのもうれしいし、ただならぬバックボーンが自分の中にあるので、本当にうれしかったです。

――浦沢さん脚本ですが、印象はいかがですか。

鈴村 浦沢さんのホンでは、よく中華料理がしゃべるんです(笑)。今回も中華料理がしゃべるんだろうなと思ったら、しゃべったので、やっぱりな。浦沢さんはそうじゃなきゃ! と思いました。
素晴らしいですよね。これは誤解なく届けばいいなと思いつつ言いますが、イデオロギーみたいなものが作品や脚本には必要と言われているし、若い声優の卵たちに教えるときにも、「確実にイデオロギーがあるから、作品が何を言いたいのかということを読み解きなさい」と言うんですが、たぶん、ここにはない。これがすごいことなんです。“ない” というイデオロギーがあるんですよ。これを見て、「何を伝えたいのか」を考えるだけ無駄だよっていう。それって、シュールの境地というか、すごいホンだなと思います。それを許す東映チームもすごいし、それを映像化する石田(秀範)監督も素晴らしい持ち味があって、本当にすごいことをやってるなと思いますよ。
「細かいことは気にするなよ」という表れがすごい。そして、たぶんこの作品は撮影期間が短かったと推察しますが、むしろ潔くていいんですよね。「ここはどこだろう?」と言ったロボコンの居場所が、明らかに東映の撮影所。長年東映特撮を愛してる身として、たまらないなと思いました。迷ってたどりついた先が撮影所ってどういうこと? っていう。それに関して何の言及もないんですよ。でもそれが最高ですね。大好きです。

――台本を読んだときとアフレコ時に映像を見たときの印象はいかがですか。

鈴村 最初に台本を読んだのですが、はっきり言ってわからないんですよ。“汁なしタンタンメン” という役の時点で謎なんですよ。ラジオでも「汁なしタンタンメン役決定、おめでとうございます。どんな役ですか?」という質問をいただきましたが、語りようがない。「汁なしタンタンメンは汁なしタンタンメン」としか言いようがないんです。ホンを読んでも汁なしタンタンメン以外の何者でもないから(笑)。
不条理中の不条理のホンということで、これはわからないぞ……と。わからないけれどやるしかないと現場に行ったら、石田監督に「まずラッシュを見てください」って言われて映像を観たんです。最近は作品によっては時間の問題もあって、アフレコ前の素材を全編通して観てからアフレコすることはあまりないのですが、『ロボコン』に関しては全部観てくださいと。でも、観たらますますわからなくなるというすごい現象が起こりました(笑)。
石田監督に「こんな感じになっています」と言われて「ですよね」という謎の会話をして、「じゃ、アフレコスタートします」と……。だったらもう、やってやろうじゃないか! と、勢いを持って腹を括ってアフレコに臨みましたね。

――汁なしタンタンメンは、赤ちゃんから猛スピードで成長していくようですね。

鈴村 最初の原稿にあったセリフは赤ちゃんのときの汁なしタンタンメンで、「ここから青年になって侍になる」と注釈が書いてあったのが面白かったですね。
オーディション原稿って、基本的にセリフの抜粋なんです。いろいろな作品のオーディションを受けてきましたが、「このシーンは初めて敵と対峙したとき」「母が死んで悲しいシーン」とかが課題になっていて。実際に合格してアニメを観ると、キャラクターのバックボーンを知って、こういう流れがあったからあのセリフがあったのかと思うわけなんですが、今回のオーディション原稿は、作中のセリフがほとんど全部入っていました。
なぜ大人になったかとか、ここで青年になる、ここで侍になる、と言うことに対してどこかで説明がある。きっと台本に書いてあると思ったら、何もないんですよ。いきなり青年になるし。説明はまるでゼロだし。これにたいしてツッコむっていうのも、最高の楽しみ方だと思います。
みなさん、先に言うとですね……意味がないので、気にしちゃダメです。そこが最高におもしろいです。


――演じるときは特になにかを意識をしたというよりは、勢いを大切にされたんですね。

鈴村 これまで僕が若い子たちに教える時は、「勢いで芝居したらいけない」と言ってきました。「一発芸みたいになったらダメなんだよ。セリフには流れがあって、バックボーンがある。だからここでこういう勢いになるんです。ちゃんと台本を読み解きなさい。そうしないと、生きたセリフは生まれないから」と言っていましたが、何を教えてきたのかと思わされました。今回は完全な一発芸です。チャレンジさせていただきました。
この仕事に就いてなかなかやれないことでもあったので、そういう意味でもやれてよかったです。僕の師匠たちからも「やってはいけない」と言われていたタブーを犯していて、ついに禁を破ったような感じすらしています。だから本当にアフレコは楽しかったですよ。あっという間に終わってしまいました。

(C)石森プロ・東映

文/阿部雄一郎

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