• 『推し武道』全話放送を終えて 山本裕介監督インタビュー:前編
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2020.04.24

『推し武道』全話放送を終えて 山本裕介監督インタビュー:前編

(C)平尾アウリ・徳間書店/推し武道製作委員会

エモくて、可愛くて、ちょっとおかしなアニメ『推しが武道館いってくれたら死ぬ』、4月からは物語の舞台となった岡山での放送も始まり、Blu-ray Vol1&2も発売され、観直し臨戦態勢にあるみなさまへ、山本裕介監督のオリジナルロングインタビューを二回に分けてお届けします。前編では、最終話まで放送が終わっての感想を中心に、未見の方はネタバレ注意です。後編では、アニメ公式Twitterで募集した監督への質問の回答をたっぷり掲載します! 


――まずはアニメ監督とはどういうことをするのか、その役割について教えてください。

山本 ひと言でいえば「ディレクションをする」という仕事なんですが‥‥‥「ディレクション」という言葉の意味通り、作品の「方向を決める」事がアニメに限らず監督の仕事ではないかと思っています。ただしディレクションをする上で具体的に何をするかの選択は、監督個々に委ねられています。「シナリオに徹底的にこだわる」っていう人もいるでしょうし、「全ての絵に手を入れる」っていう人もいます。スタッフへの指示出しにしても、絵で描いて説明する人もいれば、言葉で全てを伝える人もいます。といった具合に監督それぞれでスタンスは違うんですが、今回は僕の場合の話をさせていただきます。

まずはシリーズ構成から。『推し武道』で言えばプロデューサーの寺田(悠輔)さんや、制作プロデューサーの松尾(陽子)さん、そしてもちろんTBSさんや徳間書店さんなど、いろいろな人から、「どういうシリーズにしたいか」という希望を聞いた上で、アニメの12話の中で原作のどこまでを描くのか、何に重きを置いて切り取っていくのかといった事を検討します。そしてメインライターさん、今回で言えば赤尾でこさんにそれを伝えて、アニメシリーズの構成を組んでもらいます。

次はシナリオですね。全12本のシナリオを準備するのですが、今回で言えば3人のライターさんに書いていただいた原稿を会議にかけて、原作から外れていないか、実作業をする上でハード過ぎないか、そもそも面白いのか? など「質」と「量」の両面からチェックをして「決定稿」にしていきます。

それと並行して、キャラクターデザインや美術デザインなど、絵面に関わる設定の発注をしていきます。ここでも同様に、今回のアニメでどこまでのクオリティを目指すのか、費用対効果を考慮して適切なのか?  そして何よりもデザインとしてキャッチーであるかなどを検討します。 さらに色彩設計、美術ボードも固めていきつつ、大まかなビジュアルの方向性が見えて来たあたりで、ようやく絵コンテ発注にこぎつける、といった流れです。ここまでがいわゆる「プリプロ」と呼ばれる段階かと思います。

絵コンテというのはアニメを作る上での設計図のようなもので、演出の根幹に関わる部分と言えます。アニメの現場スタッフはシナリオではなく、コンテをもとに作業をして行きますので、そのコンテをしっかり作るということには、どんな監督も力を注いでいるんじゃないでしょうか。

コンテが完成したら、次はそのコンテを見ながら、担当演出、総作画監督、美術監督、撮影監督、色彩設計など主要なスタッフと打ち合わせをして行きます。このアニメはどこを目指して作っていくか、一番最初にお話しした「ディレクション」をより具体的に詰めていくわけです。スタッフはどんな方向にでも対応できる優秀な人ばかりですが、『アニメの推し武道』という船は「こっちに向かって進むんだよ」という方向を示すわけです。スタッフの労力が無駄なく作品の面白さやクオリティにつながっていくように舵取りをする。僕はこれが監督の一番重要な業務なんじゃないかと考えています。

――時間的にもコンテが一番かかるのでしょうか。

山本 作品によっては30分アニメのコンテチェックに何カ月もかけるという話も聞きますけれど、僕はそうならないように心がけています。コンテでスケジュールを使ってしまうと、その後を引き継ぐ全スタッフの作業時間を奪ってしまいますので。『推し武道』では各コンテマンもスケジュールを守ってくれましたし、話数によっては担当者が途中でギブアップして撒き直しになったコンテもありますが、おおむね順調に進んだと言って良いと思います。むしろその後の作業が長かったな、というのが実感ですね。

演出さんや各スタッフと打ち合わせをしたら、僕の場合はしばらく「ひたすら待つ」ことになります。種を蒔いてそれが成長するまで待つというイメージです。レイアウトの総作監修正には全て目を通していますが、それ以外の工程ではなるべく触らないで各スタッフの自主性に委ねるようにしています。伝えることは伝えたから、あとは「それぞれの判断でやってくださいね」というスタンスです。

次に監督として大きく関わる工程はカッティング(編集)です。そこでキャラクターや背景に色がつけばほぼ完成なんですが‥‥‥概ね、真っ白です(笑)。いわゆる「線撮り」という状態ですね。不完全ながらもそこでチェックする項目は、フィルムの流れがちゃんとコンテの目指す方向に進んでいるかどうか、作品に適したテンポが維持されているかなどです。また、アフレコの際にしっかり台詞が言える尺が取られているか、音楽をたっぷり聞かせる「間」があるかなど、音響面に関しての検討もします。

そしてカッティングで最も重要なのが「定尺」(ていじゃく)を出すということ。当たり前の話ですが、テレビで放送するものなので毎回決まった長さに収めないといけません。『推し武道』の場合は本編が20分50秒と決まっていて、どれだけ惜しいシーンやセリフがあっても、その尺に収まらない場合は割愛しなければなりません。どこを削りどこを残すか。その最終判断も監督の仕事です。

別の見方をすればカッティングとは、フィルムの無駄を削りつつその一方で余白と余韻を持たせるという、とても矛盾した作業です。しかしコンテと同様に、作品のクオリティに関わる重要な工程ですので、これもまた世の監督たちが力を入れている作業のひとつではないかと思います。

その次はいよいよ音響作業。映像に声をあてていく「アフレコ」はわりとおなじみではないでしょうか。アフレコでは基本的に、僕が直接声優さんに指示することはなくて、音響監督の明田川(仁)さんに趣旨を伝えてダメ出ししてもらいます。僕だけでなく担当演出やプロデューサーの要望も、明田川さんを通して役者さんに伝わる言葉に翻訳して指示してもらうんです。各人それぞれがバラバラに、しかも不明瞭なことを言うと役者さんが混乱してしまうからなんです。

次は、台詞に音楽や効果音をミックスするダビングですが、そこには僕なりのこだわりがあって、どんな音響監督さんと組む場合でも、「選曲」だけは僕に任せてもらうようにお願いしています。シーンの意図を最終的に決定するのは劇伴(音楽)だと思っていて、そこまでディレクションしてはじめて演出意図が完結するというのが僕の考えなんです。やり方としては台本に音楽ラインを引くだけでなく、より具体的に、台詞入りのラッシュにラフにつないだ劇伴を敷いたガイドムービーを渡して、ミキサーさんに意図を汲んでいただくようにしています。

今回の『推し武道』もそのやり方で、劇伴のガイドムービーができたらまず、一番音楽にうるさそうな(笑)寺田さんに見せて方向性の確認を取るようにしていました。何かリクエストがあればダビング前に直しますよって。でも意外なことに、ほとんど何も言われませんでしたね。「めちゃめちゃエモいですね」みたいな感想はいただきましたが(笑)。

そして最終的にダビング本番で明田川さんからの意見を聞いて確定します。思い込みだけで曲をつけているところや、思いが走り過ぎてエモが突出している選曲に対して「あそこはおかしい」とか「もう少し抑えた方がいい」といった客観的な意見をもらって最終調整するんです。独りよがりになっちゃうのが一番怖いですから、明田川さんの意見には謙虚に従うよう心がけていました。

といった流れを経て、絵よりも先に音響のデータが完成するというのが今のアニメでは主流の作り方です。それ以降の作業ではちょっと妙な感じですが、出来上がった音に対して絵を当てはめていくような作り方をします。

最終工程では、キャラクターと背景を重ね合わせて撮影したカットを線画の画面と差し替えて行きながら細かい点までチェックをします。最近ではリモートワークでも細かく指示出しができるようになりましたので、担当演出さんに断りを入れつつ、僕自身も直接、最終画面にちまちまと手を入れさせてもらったりしています。

それで全てのカットがOKテイクに差し代わったら監督の仕事は一応そこまで。あとは出来上がったものをクライアントさんに見せて、納品OKをもらえたら完成ですね。

――今回は絵にあわせて後から曲を作るという、映画的なフィルムスコアの手法を何曲か採用していると聞きました。選曲をやられる監督にはやりやすい手法なのでしょうか。

山本 一長一短があるとは思いますが、「推し武道」に関しては成功したと思っています。フィルムスコア曲自体は実はそれほど多くはなくて6、7曲ほどなんですが、シリーズの「ここぞ!」という場面を絞り込んで作曲の日向(萌)さんに発注したんです。例えば1話の冒頭・えりぴよが舞菜に出会うシーンとか、3話で偶然電車で出くわすシーン、7話で舞菜がえりぴよを追いかけるシーンなど。それらの場面に関しては、尺の確定したムービーを日向さんにお渡しして作業していただきました。だから画面とマッチするのは当たり前とも言えるのですが、誰でも上手くいくというものではなく、日向さんが映画的なセンスを持ってらっしゃって、しかも勤勉だったから成功したんだと思います。


文/阿部雄一郎