• 『推し武道』を彩る劇伴音楽のこだわり!音楽・日向萌&寺田P 対談!
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2020.03.18

『推し武道』を彩る劇伴音楽のこだわり!音楽・日向萌&寺田P 対談!

(C)平尾アウリ・徳間書店/推し武道製作委員会

『推し武道!音楽インタビュー』の第3弾は、劇中でバックに流れる曲を作る「音楽」を担当する日向萌さんと、寺田悠輔プロデューサーの対談! 日向さんは、このインタビュー連載でちょくちょく聞くフィルムスコアリングという手法で音楽を作った方。実際にはどのように製作したのか! そして4月1日には日向さんの作った音楽を集めた『推し武道』サウンドトラックが発売される。それまでの予習として、このインタビューをお届けします。



オタ活が役に立った!


――日向さんは「音楽」とクレジットされています。音楽というのはアニメの中でどういった内容を担当されているんでしょうか。

日向 大まかに言うとアンダースコアといって、映像の後ろで流れている劇伴音楽と言われてるものを作っています。映像を見ている方々にとって状況とか心情がよりわかりやすくなるように、場面に寄り添う音楽というのを書かせていただいています。

――寺田さんが日向さんにお願いした経緯を教えて下さい。

寺田 僕は今回プロデューサーと音楽プロデューサーの両方をやらせていただいているんですが、音楽プロデューサーをやるのは初めてなんです。今までもプロデューサーとしての音楽制作への関わりはありましたが、今回は本編と合わせて劇伴も自分で担当したいと考えていました。ただプロデューサーもやりつつ初めての音楽プロデューサーを兼任というのは、結構作業的に重いなと思っていたので、まずは今までご一緒したことがある会社さんに音楽制作を発注したいなと思っていたんですね。日向さんが所属されているミラクルバスさんとは以前ご一緒したことがあったので、今回もお願いしてみようと思いまして。『推し武道』の劇伴があるんですけれど、どなたか合いそうな作家さんはいますか、という相談をさせていただいたのが最初です。

日向 そうですね。

寺田 ミラクルバスさんにはたくさんの作家さんが所属していて、その中でどんな方が合うだろうかという話をしている中で、候補として日向さんのお名前があがったんです。その後に、日向さんの過去音源を聴かせていただいたところ、かなりピンときたんですね。その音源を『推し武道』監督や関係者に、こういう感じでどうでしょう、と確認したところ、皆さんから快諾をいただいたので、改めて日向さんにお願いしました。

――日向さんにピンときたポイントはどこですか。

寺田 以前手掛けられていたドラマの曲で、すごくエモい曲があったんです。特典会のシーンはこういう方向性の曲かな、という自分の中のイメージとも一致して。それを中心にしつつ、プラスで日常のテーマ的なオタクのコミカルな曲も書いていただけるだろうかと思って、追加の参考音源もご相談しました。

――日向さんはお話が来たときはどんな印象でしたか。

日向 私自身アイドルが好きで、オタク的要素も、ちょっと持っていることもあって、すごくやりたいって最初に思いました。でも、仕事でこういう自分のオタ活みたいなものが生きる場面がくるというのは、結構感慨深かったです。

――どのくらい深い感じのオタ活だったんですか。

日向 最前でやられている方とは比べられないですが、在宅で日々動画とか、MV見たりとか。密かに活動していました。仕事で活かせるなんて全然思っていなかったんです。いち個人の趣味として、そこから日々、元気をもらっていました。

――生粋のアイドルオタクってHPにもありましたもんね。

日向 僭越ながら書かせていただいたんですが。ライブやイベントに行ったりもしますし、アイドルの子たちが日々成長している様子の動画を見て、常にパワーをもらっていて、「自分も頑張ろう」って。そういうのが劇伴を作るエネルギーになっているので、エモーショナルな部分や勢いという意味では、書いてる曲がすごく影響を受けてるんじゃないかなと思っています。

――原作はご存知でしたか。

日向 お話をいただいてから原作を読ませていただいて、自分がオタ活してて感じるエモさっていうのがあるんですが、あまりはっきり言葉として具現化されてない状態で今まできていて。そういうものが漫画を読んだ時に、人とも共感共有できたり、いい意味でわかりやすくすごく“エモさ”っていうのが具現化されていて。読んでいてとにかく楽しかったですね。

――「そうそう!」みたいな。

日向 そうですね。尊さとかも、その瞬間瞬間の尊さが、しっかりページの中に収まっている感じというか。それでいて絵もすごく可愛いですし、ギャグとかテンポ感とかもすごく惹かれるものがあって。読み始めてからハマるのが一瞬でした。

――実際の作業に入っていくということで、どういう発注をされたんでしょうか。

寺田 最初にお会いした際に、劇伴のアイデアメモを書いてお渡ししました。大きく方向性を2つに分けていて、1つ目は「美しく、清く、エモい印象の楽曲」、2つ目は「オタク的な賑やかさ、勢いのある楽曲」ということをお伝えしました。
そのエモい曲について最初に出したテーマが、「他人を応援することの尊さ」です。行動の音というよりは、心・気持ちにつく音ですね。心で推しを思っているとか、そういうときの曲をメインテーマにしたいというお話をさせていただきました。ほかにも、「心の奥底の感情をシンプルに」とか、「印象的なフレーズの反復」とか、そういうざっくりイメージを最初にお伝えしました。この作品は最初から最後まで「推しを推す」という内容で徹底されているので、劇伴でもその一貫したテーマを表現するために、繰り返し系とかアレンジ違いが合うんじゃないかなと思いまして。主人公がすごく成長して、劇的に変わるような物語ではないので、第1話から思ってたけど、最終話でもこう思っててよかったし、この先もそうあり続けたい、みたいな。主人公がその再確認をするという意味で、劇伴にも最後まで同じモチーフがあったほうがいいかなと思っていました。あとは僕は元々映画が好きで映像の世界に入ってきているので、映画の参考曲をあげさせていただきました。


▲こちらが、スタッフでもほんの一部の人しか見ていないという、寺田さんのアイデアメモ。なかなか見られないものをお借りしました。

日向 実際に打ち合わせでも映像を持ってこられて、その映像を一緒に見てこういう感じにしたいって語られていました。

寺田 2つ目の方向性として、エモさとは真逆のコミカルなものをお願いしました。エモい曲が気持ちについていたのに対して、これはどちらかというと行動につく曲ですね。これもこの作品には欠かせない方向性の曲なので、2つ目の大きな柱にしていました。あとは最初の打ち合わせのときから、見せ場のシーンは映像に合わせて劇伴を作るフィルムスコアをやりたかったんです。それも最初の資料に書いてあるので、まずはやりたいことを全部書かせてもらった感じですね。

――こちらをご覧になっていかがでしたか。

日向 すごく方向性がわかりやすかったです。細かな連携がとれているというか、劇伴音楽に対して寄り添ってくださっているというイメージが強かったので、安心してこの方向性でいこうということが最初から明確な上で、曲を書き進められました。

――フィルムスコアという手法自体はいかがですか。

日向 普段TVシリーズの劇伴を書くときは、選曲家さんや監督さんが書き出したメニューシートというのがあるんですね。その作品に対してどんな音楽を当てるのかが書いてある音楽表みたいなものです。それにしたがって音楽を作り、最終的に編集した映像に、合いそうな音楽を当てていくというやり方を普段はしているんですが、フィルムスコアリングというのは先に映像が出来上がっている状態、尺が決まっている映像に対して後から音楽を作る手法になります。なのでよりセンシティブに映像に寄り添える手法ではありますね。

――今までにやられたことはありましたか。

寺田 映画は基本そうですよね。

日向 そうですね、映画では基本的に。

――メニューシートに従って作るのと、フィルムスコアリングの手法、やり方としてはどちらのほうが面白いですか。

日向 それぞれに良さはもちろんあるんですが、例えば今回の場合だったら、何箇所かフィルムスコアリングでやりたいと言われていたシーンがありまして、そのシーンをより印象的にするために色々工夫しています。例えばえりぴよが最初に初めて舞菜と出会って、心を射抜かれるシーンです。

寺田 第1話のアバンですね。

日向 そこはわざと音楽を一瞬止めるようにして、その時が止まった感じを表したり。あとは舞菜がえりぴよを追いかけて走るシーンが7話にあるんですが、そこでは舞菜が3回「うれしい、うれしい、うれしい」って心の中で言うんです。そのニュアンスが1回ずつ少しずつ変わっていて。それを自分の中で最大限生かしたいというのと、シーンをよりエモくさせたいということで、どういう音楽の当て方をしたら3回の「うれしい」がエモく聴こえるかというので、何回も当て方を変えて研究してみたりとか。シーンに寄り添うやり方が今回できたかなというのがありましたね。


▲第7話より

――観ているほうはストーリーを追いながら見ているので、気がつく人って少ないかもしれませんが、シーンの盛り上がりに没頭できるのは、音楽のちからだと思います。手助けになるものというか。『推し武道』は毎回しっとりと終わることが多いのですが、あの気持ちよさを助けてるのって音楽の力がすごく大きいと思うんですよね。

寺田 僕もそう思います。

日向 そう言っていただけたら作った甲斐があります。

寺田 映像音楽なので、目立ちすぎててもよくないじゃないですか。やりすぎて全体の邪魔をしても駄目だと思いますが、今回は映像に寄り添っている感じがします。

文/阿部雄一郎

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