• 『映像研』の漫画とアニメを比較しながら、手塚治虫と宮崎駿を考える
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2020.01.30

『映像研』の漫画とアニメを比較しながら、手塚治虫と宮崎駿を考える

『映像研』の漫画とアニメを比較しながら、手塚治虫と宮崎駿を考える


 『映像研』初見時にはここまで気にならなかったのだが、あまりにアニメが面白かったので、いろいろ追いかけているうちにYouTubeで岡田斗司夫氏と原作者・大童澄瞳氏が話しているものまで追いかけて、岡田氏の名前から、ガイナックスが思い浮かび、年末に庵野秀明監督がダイヤモンド・オンラインで発表した「特別寄稿」に連想が進んでしまったから、思考がどんどん拡大してしまったのだ。

 単に自分がジジイなことの表明にしかすぎないが、SFファンとして「第二十回日本SF大会」つまりは「DAICON 3」に、高校時代ひとりで参加してオープニング・アニメを観、2年後の「DAICON 4」に大学生として友人といき、『新世紀エヴァンゲリオン』を徳間書店の社員としてボロビルの2階で観た人間としては、あの「特別寄稿」には、別段、誰に感情移入するというわけではないが(とりあえずガイナックスの主要メンバーの皆さんとは、頻度は違えど、ほとんどお会いしたことはある)、胸がつまる想いだ。
※このあたりが分からない人は島本和彦先生の『アオイホノオ』でも読んで勉強してみてください。

 ダイコン→ゼネプロ(ゼネラルプロダクツ)→ガイナ(ガイナックス)といった、出世魚のような変化の過程(『シン・ゴジラ』での蒲田くん→品川くん→鎌倉さん、のよう)は、私たちの世代のオタク係数がたかい人種にとっては、特別な夢のようだった。

 世代と興味の方向性によって対象はいろいろあるだろうが、若者たちが「妄想=理想=希望」を共有して、それが具現化する瞬間の魅力は、人間だからこそ生成できる「魅力」だ。それは昔からずっと、きっと今も、そして未来にも、どこかに存在する。

 宗教だって、政治結社だって、会社組織だって、アニメだって、ゲームだって、SFだって、革命活動だって、欧州だって、アジアだって、北米だって南米だって。

 だが、それらは、おなじ形のままでは続かないのだ。最初の絆がずっと保たれることはない。

 重要なのは、ひとつの絆が消滅しても、「今も」「未来にも」、あたらしい妄想が編み合わされ、絆を編んでいくということだ。明日のガイナックスも、明日のトキワ荘も、明日のアップルも、種はどこかで発芽する。

 『映像研には手を出すな!』はそれを、幸せな形で暗示させている。

 いかんいかん、それこそ私個人の「妄想」が駄々洩れっているようだ。

 ということで『映像研』にもどると、作中での宮崎駿リスペクトは、原作、アニメを問わず、そこかしこで表現されている(『未来少年コナン』の引用だけでなく、第一話導入はまさに『千と千尋の神隠し』だし、設定画のタッチはまさにザ・ミヤザキ)が、マンガとアニメ、どちらもが良作となっていることで、手塚治虫と宮崎駿というふたりの天才=妄想の巨人の比較のための材料=観測指標となっているのが、良い。ワクワクする。

 描き始めるときりがないので、さわりだけメモっておくと。

 手塚治虫の凄さは個人表現をまっとうし、未来の希望となったこと。マンガという、紙とインクとペンがあれば、一人で完成させられるもので、多くの他者(読者)の「妄想」に根拠を与えられたことだ。個人表現だからこそ、敗戦後に(戦前の)権力・暴力を否定しながらも、それらによってに抑圧された子供(つまりは戦中の自分)を救うという偉業を、わかりやすく絵で描いたエンタテインメントを生み出すことで達成できたのだ(文字表現なら、もっと困難だったはず)。

 宮崎駿はアニメーターとして天才であるが、アニメーションはやはり集団作業である。のちの『未来少年コナン』や『カリオストロの城』や『風の谷のナウシカ』のような、自身が中核として活動できるようになって以降の作品は置いておいて、かれの出自である初期東映動画の劇場作品に、動くことのすばらしさ=官能はあってしても、手塚漫画のように他者のうちに「希望」を生み出すような、センス・オブ・ワンダーの力があったかどうか?
なにより自分の思考を作品として昇華した『風の谷のナウシカ』は漫画作品であり、その全編がアニメーション化はされていない。

 十代から自身の名前を冠した作品を発表し続けた手塚治虫、作品が世界中で鑑賞されるまでにいたった宮崎駿、このふたりの影が、アニメ『映像研には手を出すな!』から感じられ、視聴時にはいつもドキドキしている。

 現在刊行している漫画『映像研には手を出すな!』は4巻まで(今月末に5巻が発売)、途中、水崎が「私は私を/救わなくちゃ/いけないんだ」とか、プロデューサー役の金森の「問題が感情で/解決する人間が/一番嫌いだ。」といった名言が多出する。アニメで物語のどこまでが、どう表現されるか興味津々だ。
▲1月30日発売『映像研には手を出すな! 』5巻

7代目アニメージュ編集長(ほか)大野修一

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