『推し武道』のキャラクターは魅力的――原作も読まれていたんですよね。
佐倉 原作も読んでいました。相変わらずのアウリ先生っぽい雰囲気プラス、今までのアウリ先生の作品にはなかったアイドルの現場というテーマが入ることで、とても読みやすいなと思いました。素敵なコラボレーションだなって。私もアイドルが好きなので、推しはこういう地下アイドルではなかったのですが、今は心の何処かでChamJamを探しています。それくらいハマっていますね。
平尾 ありがとうございます。
佐倉 モデルになっているアイドルグループはいるんですか?
平尾 グループはいないんです。メンバー個別に、顔のビジュアルで参考にしている人はいます。アイドルの方というわけではなく、いろいろな界隈の女子の顔を参考に作ってるんです。別の取材でお話したことありますが、実際にいる女の子をモデルにしてるっていうのが特徴のひとつというか。モデルがいたほうが描きやすいですからね。
佐倉 今までの作品にもモデルがいたんですか?
平尾 いないんです。今回は何人もの女の子を描きわけなきゃいけないので。
佐倉 確かに。女の子がたくさん出てきますもんね。
平尾 そうなんです。
佐倉 短編集の私がとても好きな設定なんですけれど、いろいろな登場人物が出てきて、でもそれぞれがどこかでつながっている。誰々のお兄ちゃんとか、誰々のお姉ちゃんとか、町で会った人とか。それが1冊の中で展開するんです。私、登場人物を覚えるのが苦手で、たくさんのキャラクターが出てくると「この人だれだったっけ」とページを遡ることがよくあるのですが、アウリ先生の作品だと、パッと名前が出てきて、パッとつながるんです。
平尾 え~よかったです。すごくうれしい。ありがとうございます。
佐倉 どのキャラクターもとても魅力的です。くまささんも、参考にした方がいるんですか?
平尾 くまささんはいないんです。描きやすい感じのキャラクターにしています。
佐倉 こういう人、いそうだなと思います。
平尾 そうそうそう。
佐倉 ChamJamの子たちって、基本悪い面が見えないところが、私はすごく安心して読めるんです。一般的にアイドルとか女の子がたくさん集まると、大変なことが起こることが想定されるじゃないですか。そういうところを排除するというのは、決めていたんですか?
平尾 そうですね。アイドルの悪いところは書かないでおこうと思っていました。大体のアイドル漫画って、なぜかアイドルを落としに行くじゃないですか。
佐倉 そうなんです。だから私、今までそんなにハマらなかったんですよね。
平尾 そうなんですね。アイドルを落としたくなんてないですよね。可愛いものは可愛いままで見せたいんですよね。
佐倉 本当はいいところだけを見ていたいなと思うのですが、フィクションでもノンフィクションでも、アイドルの闇みたいなところにつっこんでいく作品が多いんです。もしくは完全に男性に向けたもの。わりと今までその二択だったのが、『推し武道』では、中を覗いても可愛いし、外を見てもオタクたちが可愛いし。出てくる人間が、みんなすごく可愛いんですよね。平和なんです。だって空音ちゃんのファンの話、ガチ恋の話って、描くのが難しいと思うんですよ。
平尾 ちょっとドロッとした部分とか、見えてくるはずなんですよね。
佐倉 愛憎劇になってしまいがちですよね、アイドルの本質を突き詰めていくと。彼女たちはアイドルの衣装を身にまとっている間は、誰のものにもならないっていうのが、その世界での生き方なので、そう考えると、みんなが悪者にならないのに、ちゃんとアイドルの中に存在しているものをしっかり描かれているようで、いいなと思うんですよ。
平尾 そう言っていただいて、いい漫画描けてよかったです。ガチ恋勢を救ってあげたい気持ちもあったんです。
佐倉 おぉー。
平尾 そうなんです。ガチ恋勢はどこ行っても嫌われるっていうか、叩かれるじゃないですか。ガチ恋ってだけで叩かれるんですよ。
佐倉 ガチ恋なだけなら叩かれないはずなんですけど…やっぱりその先で、人としてよくないこと、アイドルが望んでいないことを起こしてしまうから非難を受けるわけで、本来片思いをするだけなら大丈夫なはずなんです。
――ガチ恋が必ずしも悪いわけではないですからね。
佐倉 『推し武道』に登場するオタクは、ちゃんとそこをわきまえながらオタ活をしているじゃないですか。すごくみんないい人だなって安心して追いかけていけます。